頂き物

□途方も無く永遠に
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※自己解釈・流血表現注意



私が彼と出会ったのは、一体何時頃だっただろうか。


この暗い世界にアザミさんといて。

気がつけばそこにいた、その程度の認識でしかない。



「本当、人間ってのは馬鹿ばかりだな」



そう呟いたクロハの声が聞こえた方向へ、ゆっくりと目を開いた。


クロハは心底つまらなそうに伸びをすると、私の方に視線を寄越した。



「なんだ黒麗。起きてたのかよ」


『…さっき起きた。』



私はぎゅっと膝を抱え込むように座った。


その隣に、真っ黒な彼が腰を下ろす。



私はそっと、自分の左手首を見た。


昨日自分で付けた傷が生々しく残っている。

徐々に修復されようとしているそれ。


いつもならば一日寝れば修復されるのだが、どうやらいつも以上に深くやりすぎたらしい。


 
もう少し限度を考えないと。


またアザミさんに「馬鹿者が!」と怒られてしまう。


何度怒られても、アザミさんの怒り方には耐性がつかない。


その怒られている状況を、クロハが笑いながら見ているというのはまた別の話。



アザミさんはまたどこかへ行ってしまっている。


最近「一人にさせろ」とよく言うから、多分考え事か何かだろう。



突然、私の左手首に別の手が触れた。



「また派手にやったなぁ、お前。」



言わずともクロハだ。


ここだけの話、彼の手が触れると少し心が落ち着くから不思議だ。


蛇である私は、何故だか常に情緒不安定だ。

そのせいで自分に傷を付けてしまうのだろうけれど。


自分の体から滴る赤い粘液を見ているときは、【痛い】以外の感情を抱えずに済むのだった。



『……別にクロハには関係ない』



嘘だ。

この口からは嘘しか出てこない。


そんなこと、言うまでもなく自覚している。



私という“何か”は、常に“救済”を求めている。



そんなこと、とうの昔から理解していた。



「…お前なぁ………」



すぐ近くでため息が聞こえた。


それと同時に手首からクロハの手が離れ、私の頬にその手が添えられていた。


半ば無理矢理、クロハの方を向かされる。

思っていた以上にその顔が近くにあって、私は後ろに仰け反った。


条件反射、とかいうやつだ。


それにしても、血とかの非現実的なモノが大好きなクロハにこんな反応をされるだなんて、全く以て予想外だ。



「そんなことばっかり言って楽しいのか?
 俺を困らせて楽しいのかよ?」

『…困、る?』



クロハの口からは絶対に出ないであろうと思っていた言葉だ。

私は目をぱちくりと瞬かせた。


クロハはため息をつくと、私の頬から手を離し、そっぽを向いた。
 
その表情はよく見えない。


私はふと、自分の頬がほんのり熱くなっているのに気づいた。


何故か慌ててその頬に手を当てる。

……何なんだろう、この感情は。


羞恥の中に微かに、でも確かにある高揚。

一体何なのだろうか。



「……関係ないとか、言うな」

『………うん』



そう返事をすると、クロハは「約束だからな」と笑った。

私も、それに連られて少し笑った。


まだ頬は熱い。

きっとこの笑顔は、苦笑い以外の何でもない。





けれど、私は




途方もなく永遠に、貴方の傍に居られますようにと、小さく祈るのであった。



 

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