novel
□少しの変化に悶える僕は
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全く、文明の利器とは凄い。
たった十数年前には考えられなかったものが、次々と現実化されているこの近代。
こうして僕がシンタローくんと付き合えることになったのも、この携帯電話というメールの機能のおかげなわけで。
アナログ変換したら、住所を教えあって手紙交換して自分の気持ちをお互いに伝えて…うわ、めっちゃめんどくさい。
そんなことをせずともボタンを押すかキーボードをスライドさせて文字を打って、送信ボタンを押せば相手の携帯にすぐ届く。ほら簡単。
そして今日も僕は大好きなシンタローくんに愛の詰まったメールを送る。
「お前のメールは絵文字と顔文字だらけだな…」
「うわっ!?キド!?」
いつの間にか居たキドに背後からメールを覗かれ、僕は驚いて危うく携帯電話を落とすところだった。危ない危ない…。
「だって気持ちを伝えるには絵文字とか顔文字は必須だよ?」
僕がキドに向かってそう言うと、キドの顔付きが変わって如何にも“何こいつ気持ち悪い”みたいな顔された。正直キドに僕のメールをどう思われようが別にいいけど、シンタローくんがキドと同じような気分になってたら、なんて考えたらちょっと血の気が引いた。
「いや、まぁいいんだが…人それぞれだしな」
目を反らされながら苦笑いでそんなフォローしてももう遅いよ団長さんよ…僕の心には下手したら酷いことになる傷が出来たよ。
考えてみたらシンタローくんから来る返事はいつも単調だ。絵文字顔文字はもちろん無くて“あぁ”とか“そうだな”とか“了解”とか。メールの内容が3行を超えたことなんてあったか無かったか…。
えっ、えっ、どうしようメールで嫌われちゃったとか笑い話じゃ済まないんだけど!
そう悶々と悩んでいたら、携帯に青いランプが点滅した。メールが届いたらしい。
急いでロックを解除してメールを開いてみたらさっき僕が送ったメールの返信で、相手はもちろんシンタローくん。
これで“カノのメール気持ち悪い”とか来てたら僕泣くよ!欺く余裕とか無くてボロボロ泣いちゃうからね!?
シンタローくんから来たメールをタップして内容を見る。
僕が送ったのはアジトにいつ来るのか、といった内容のメールだ。最後の最後に“シンタローくんに会えなくて僕寂しい(´;ω;`)”って打っちゃったけど。
“エネとモモが五月蝿いから明日行く”
明日行く、ということに喜んだけど、相変わらずの単調メール。世の中の男の子って全部シンタローくんみたいなのなのかなぁ…。
返信を送ろうとメニューキーを押そうと思ったら少し画面に指が当たってメールがスクロールした。どうやら改行があったらしい。
「なんだこれ?真っ白じゃん」
どんどん下に続いていて、ずっとスクロールしているが文字なんか全然無くてずっと画面は真っ白いままだ。
7回くらいスクロールしてやっと最終行に辿り着いた。なんだ、結局真っ白じゃないか、と目線を下に下げた。
“××”
この言葉を見つけた途端、僕の顔の筋肉は一気に緩んだ。
(シンタローくん可愛いっっ!)
20130620