novel

□これでも頑張ったんです
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少しの変化に悶える僕はのシンタローサイド。






『ご主人!ご主人!吊り目さんからメールです!』

エネの声がイヤホン越しに聞こえ、俺はパソコンのキーボードを打つのを止める。
慣れた手つきでロックを解除すると、エネの言う通りカノからのメールが来ていた。

『今日のメールは何て書いてあるんですっ!?』
「なんでいちいちお前に言わなきゃいけないんだよ」
『えぇ〜!何でですかぁ!ご主人のケチッ』

ギャーギャーと騒ぐパソコンの中のエネの声が五月蝿いが、俺はイヤホンを外して淡々とタッチパネルを操作していく。

エネは俺とカノが付き合っていることを知っている。別に俺から言ったわけじゃない。こいつは大体俺のパソコンか携帯にいるし、バレるのも時間の問題だったというわけで。
ただ勝手にメールを見たり会話を録音したり写真を撮ったり…そんな悪質な悪戯はいつもより増えた。俺のHPは刻々と減っていっているさ!あぁ!

『しょうがないから自分で見ます』
「は?お、おいエネ!読めないだろ!」

いつの間にかパソコンから携帯に移ったエネがニヤニヤしながらカノからのメールを開いて見ている。俺に見えているのはエネの背中のみだ。

あいつから来るメールはいつも絵文字や顔文字だらけで時々見るのもこっぱずかしくなる程だったりする。
内容も、直で言われたらアッパーくらい喰らわせれそうなくらい恥ずかしい内容の時だってある。俺の腕力じゃアッパーは無理だって?うるさい。

少ししたらエネがにやぁ…、と言う言葉が素晴らしく似合う笑顔(?)で俺の方に向いた。

『ご主人…愛されてますねぇ』
「う!ゲッホゲッホ!」
『うわっ!きったないです!』

別に何も飲んでいないのにエネの一言で唾液が器官に入って咽せてしまった。きっと今の俺の顔は色んなせいで赤いだろう。

あ、愛されてって…あいつ何を送ってきた!?

『はいっ!これがメールの本文です!』

エネがずいっ、と出してきたメールの本文。相変わらずの絵文字や顔文字だらけでカラフルだ。

“シンタローくんを愛してやまない彼氏のカノでっす☆
シンタローくん今度アジトに来るのはいつくらいになりそう??マリーも皆に会いたがってるし、近々集まろうかなって思って!(`・ω・´)キリッ
まぁ、シンタローくんに会いたいのは僕が一番なんだけど♡もう僕シンタローくんに会えなくて寂しい(´;ω;`)”

なんかもう…色々と突っ込みたいけど突っ伏すだけで精一杯だ。
なんであいつはこんな恥ずかしい内容のものを平然と送ってこれるんだ!羞恥心というものを持ちなさい!

『ご主人、耳まで真っ赤ですよ』
「うるせぇ!!」

ぷくく、と笑うエネがとても腹立たしい。
これをこいつに見られたかと思うと…あああまた脅されるネタが増えた…。

でも、最後の“寂しい”というのは俺も一緒で。前会ったのがいつだったか…一週間以上会ってないのは明らかだ。
モモが仕事の都合上家に帰らないといけなくなって、それに便乗して俺も家に帰った。元から家から出ないヒキニートだったからか、それからアジトに行くことも無く。
モモは仕事や学校から帰ってくると必ず「アジトに行きたいぃ〜!」と叫んでいるが、あいつもあいつで色々大変らしい。

――そう言えば明日は久しぶりに休みを貰ったって母さんに話してたっけ。

そんなことを思い出してタッチパネルをスライドしていく。

『な〜んか私と妹さんが五月蝿いから渋々行くみたいな文章ですね〜、しかも短い』

一行打って送信ボタンを押そうとした時エネのそんな言葉が聞こえてきてぴたり、と手の動きが止まった。

確かに俺が打つのは大体一言二言。だってそれ以外に話すことなんてないし、カノのようにメールをデコレーションするなんて俺のキャラじゃない。

なんか送信ボタンを押すに押せない状態になってしまった。

『吊り目さんがご主人に会えなくて寂しいって言ってるのに、ご主人は何も無しですか?』
「…どういう意味だよ」
『正直に言ったらどうです?ご主人も寂しいんでしょう?』
「っ!」

顔に出てますよ〜!ご主人ってほんと分かりやすいですねっ!、と言いながら大爆笑している。

こいつっ…!

怒りをぶつけれない苛立ちを親指に乗せて画面の端にある改行ボタンを連続で打っていく。

改行するにあたって上に上がって画面から消えていく文字のようにエネも一緒に消えてくれたらいいのに。

『ぶふっ!何ご主人改行ばっかりしてるんですか!』
「何でもねぇよ気分だよ」
『どんな気分だったら無意味な改行をするんですか!』

エネは再び、というか先程にも増してひぃひぃと笑い出した。お腹を抱えて画面をバンバンと叩く。

いくら何でも笑いすぎだろ…。

苛立ちもエネの爆笑ぶりを見ていたら呆れに変わった。適当なとこで改行ボタンを押すのを止めて、エネが笑いすぎて目を瞑ってる間に少し文字を打って即座に送信ボタンを押す。

エネの笑い声が響く中“メールを送信しました”という表示を見て携帯の電源を切った。

「あぁ〜〜〜…バッカみてぇ」

再び顔に熱が戻ってきて椅子からズルズルと身体が落ちる。


どうか、あいつが見つけても見つかってませんように…。










(“俺も”なんて…)













20130621

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