novel
□working!!?
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「シンタローさん!バイトしないっすか!?」
「しない」
バイトから帰ってきたセトが突然言ってきたのは、俺にとって果てしなくハードルの高いことだった。
バイトの“バ”の字を聞いただけで身体は拒否反応を起こしてしまう。伊達に二年間ヒキニートやってきただけあって人と関わるものには敏感になっているようだ。
「そんな即答しないで欲しいっす〜!ちょっとは俺の話も聞いてくれたっていいじゃないっすか〜!」
「いや、どんな理由があろうとも俺にバイトとか無理だから!コミュ障ヒキニートにはそんなもの地獄なんだ!!」
俺がどんなに嫌がろうもセトは俺にくっついて離れようとしない。ジャージの裾を掴んでいるセトの手を剥がそうとするが力が強すぎる。泣きつく姿は子供のくせして力は立派な男とか反則だ。
「シンタロー。悪いが聞いてやってくれないか?」
「キド…」
台所からシンプルなエプロンを外しながらキドが来た。どうやら家事が終わったらしい。
「セトがここまで慌ててるのは珍しいから、何かあったんだろ。俺も聞こう」
ふ、と微笑みながらキドが反対側のソファに腰をかけた。
何というイケメン…いや、キドメンというべきか。
「キドにそこまで言われたらなぁ…」
右手をセトの手の上から自分の首に移動させつつそう言うと、セトの顔はぱあっ、と明るくなって「ありがとうっす!」と俺とキドに向かって言った。
***
「…というわけで、臨時バイトを探してるんす」
しゅん、と肩を落とすセトを見つつ、若干引き気味に「うわぁ…」と呟く。
セトの話はこうだった。
セトのバイト先のひとつにカフェがあるらしく、最初は人通りも普通で少人数でもやっていけてたのだが、バイトが一気に三人程止めたのと、そのカフェの近くに新しいショッピングモールが建設され訪れる客も激しく数を増して手一杯なんだとか。
そりゃ泣きつきたくもなりますよね、セトさん。
「ちょっとシンタローさん!?今絶対他人事のように思ったっすよね!?」
「へ!?いや!ソンナコトナイヨ!?」
何故バレた。こいつの能力が“目を盗む”能力というのは知っているがあの能力を発動させる時に発する特有の赤い光は無かった。と言うことは俺がただバレバレだったのか。
「ねぇ!どうっすか?一緒にバイトしないっすか?」
「え、ええ…俺より他の奴の方がいいんじゃねぇか?ほら、カノとか接客業上手そうじゃん!」
我ながらナイスアイディア!他の奴になすりつけ作戦!
とか思っていたがそれを言った途端セトから笑顔が消えて目線も逸らされた。キドをちらっと見るとキドも俯いていた。俺は何かやばい地雷でも踏んだのか…?
「カノはちょっと、諸事情で駄目なんすよ」
「あ、あぁ…そうだったのか…」
案の定、俺は地雷を踏んでいた。
シン…、と静まり返ったリビングには時計の針の音だけが鳴り響く。
なんでこんな時に他の団員はいないんだ!俺この空気苦手なんだよ!
静まらせたのは自分だがこんな空気耐えれるはずもなく、俺は自分で発した大きめの声でこの沈黙を破った。
「〜〜〜分かったよ!俺でいいなら手伝ってやる!ただし裏方のみな!!」
「…っ!シンタローさん大好きっす!」
言った、言ってしまった。
なんだかんだで結局断れない自分の性格が憎い。
抱きついてきたセトを振り落とすこともなく、俺は早くも後悔していた。
向かいにいるキドもほっとした顔をして「じゃあ俺は買い物にでも行ってこよう」と言いながら立ちあがった。
「キド、俺も「いってらっしゃいっす〜〜!!!」
行こうか、と言おうとしたら未だ俺に抱きついたまま離れないセトが大きい声でキドを送り出した。この状況から抜け出したかったのだが、元凶にチャンスを潰された。こいつ、わざとか!?
パタンとドアが完全に閉まるとセトがにこ、と笑いながらこちらを見る。
「シンタローさんと働けるなんて嬉しいかぎりっす」
「そうかい…」
呆れ顔で言い返して、俺は重心をセトに預ける。もうなんか色々疲れてしまった。
「明日店長に言ってくるんで、多分シンタローさんに入ってもらうのは来週くらいからと思うっす」
「来週か…結構早いな…」
「当たり前っす!早く入ってもらわないと臨時バイトの意味が無いっす!」
それもそうか、と思いつつ俺はセトの腕の中で来週から始まるバイト生活に早くも不安を抱くのだった。
(ちなみにカノには諸事情も何も無いっすけど…都合いいから黙っとこう)
20130621
まさかの続きます|ω・)チラッ