novel

□working!!?2
1ページ/1ページ


「じゃあ、自己紹介よろしく」
「き、如月シンタロー…です…よ、よろしく、お願い、します…」
「「「よろしくお願いします!!」」」

店長さんの言うとおりに自己紹介をした後の、他数名の従業員の立派な返事に対して、俺はびくっ、と肩を震わせた。あ、涙も出てきた。これだからニジヲタコミショーヒキニートは、なんて天の声が聞こえたような気がした。
さっそくかたかたと震える俺にセトは優しい笑みを浮かべつつ「シンタローさん、分からないことがあったら言ってくださいね?教えるっすから!」と言ってくれた。俺はどきまぎしながら「あ、ああありがとう…」と言う。この謎に満ちた場所に1人でも知り合いがいる安心感はとても精神的に楽になる。

でも、セトが何でも教えてくれるというのなら、俺は是非あの時、俺は何故この臨時バイトを“やる”と言ってしまったのか、それを教えて欲しい。


あれから一週間。俺が知らない間に着々とセトのバイト先のカフェで俺の臨時バイトの話が進んでいたらしく、今日めでたく(俺からしたらめでたくもない)初バイトの日となった。
ただ助かったのがヒキニートでコミュ障の俺なのにも関わらず店長さんも従業員さん達もいい人達だったということだ。セト第二号、第三号と付けたいくらいコミュ力MAXです皆様。
そして希望していた裏方のみという条件だが、セトが説得してくれたのか、まさかのお許しが出た。流石に忙しかったら接客にも出てくれ、と言われたがそこはセトの働きぶりに期待するしかない。

「しかし、ここ案外広かったんだな…」
「そうっすよー!去年改築したばっかだったはずっす!」

従業員用の制服エプロンを整えながら外見からは想像つかなかった内装に感想を漏らした。
セトの言葉に、去年って“ばっか”というんだろうか…?なんてどうでもいい疑問をすぐに頭から消去する。

ここのカフェは飲み物やスイーツはもちろん、他のメニューも豊富で店内も広々としている。客席も10席あるかないか…奥の方にも客席があるらしいが、俺はまだ見ていないから詳しいことは分からない。店内がこんなにも広いというのにキッチン、従業員用の休憩所も結構広かった。バイトなんてしたことないから標準サイズはイメージでしかないんだが…。

「じゃあシンタローさん、今日は慣れるためにお皿洗いもお願いしますっす!」
「お、おう」

皿洗いか…どんなクズ人間でも出来る仕事で良かった。

そうほっ、とするのも束の間。急にセトの体重が少しかかって重いな、と思えば突然セトが頬がくっつきそうになるくらい顔を近付けて来た。セトの顔が近付いてきただけで顔が赤くなる自分が恨めしい。

「セ、ト…?」
「お皿、割ったりしないで下さいね?もし割ったりしたら…」
「…っ!」

いつもより低い、響くセトの声。そんな声を耳元で囁かれる。悲しくも俺はそれに感じてびくり、と身体がこおばった。ゆっくりセトの方に顔を向けて表情を見てみると、いつもの優しい笑顔とは裏腹、悪戯が成功したような子供の笑顔みたいににや、と笑っていた。

「分かるっすよね?」

俺は言われるまま、こくこくと頷くことしか出来なかった。いや、許されなかった。
どこそこの漫画のお約束じゃないんだから、なんていう理由はこいつには通じない。きっとお皿を少しでも欠けさせてみろ。きっと帰ったらヤバいことになるぞ…色んな意味で。

そう考えていると店の方から「いらっしゃいませー」という声が聞こえてきてセトとほぼ同時のタイミングで振り返った。

「お客さん来たみたいっすね。じゃあ俺は向こう行ってくるっす!」
「頑張れよ〜…」

フロントに消えていくセトに手をふらふらと振った後、ほんの少し赤くなった顔を目の前の水道でバシャバシャと洗い始めた。

「バカセト…っ!」

ぽたぽたと自分の髪から水滴が落ちるのを見つめながら、俺は精神的な死を覚悟した。






20130623
いつまで続くのこれ|ω・)チラッ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ