novel

□第三者の目は恐ろしい
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「貴音さーん!遥さーん!」
「アヤノちゃん!…なんであんたもいんの?」
「…連れてこられたんだよ」

遥と雑談していると勢いよく開いた教室の扉。その向こうには可愛い後輩のアヤノちゃんと捻り潰したい後輩No.1の如月が立っていた。
なんでアヤノちゃんがこんな奴を相手にするのかが未だよく分からないけど、私はこいつが大大大嫌いだ。文化祭の時に偉そうな口を叩いて、そんでもって私が負けたから…っていう若干逆恨みみたいなものはあるけど、それが無くてもきっとこの気持ちは変わらない。えぇ嫌いですね。

「シンタロー!貴音さんは先輩なんだから敬語使わないと!」
「先輩でも使わなくていい人だっているだろ、ほら」

とか言いつつ私に指を差し向ける。

「…ということは、私には敬語なんて使う必要が無いと?」
「あぁ。さすがにそれは分かるんだな」

いや、敬語を使う使わないはどうでもいい。私も目上の人なのに乱暴な口を言ったりしているし、きっとどーこー言える立場じゃない。正直言うとこいつ限定では腹立ちますけどね。

「まあ私も人のこと言えないから何も言わないけどさ、社会に出てそれで食っていけると思ってるわけ!?」
「行けるね。少なからずお前よりかは」
「はぁ!?絶対私のほうが行けるわ!」
「じゃあ就職したら年収で勝負するか?」
「上等…」

鼻を鳴らしながら嘲笑を零す如月を指さしながらそう言ったが、よく考えたらこいつすっごい成績いいんだっけ、と思い出した。こいつは、この前のテストで遥がやばいからって教えてて、それを盗み聞きしてたら先生より全然分かりやすかった。こいつは態度は悪いし目つきも悪いけど、それは私にも当てはまるし…、なんて考えていたら勝てる気がしなくなってきた。

…やばい、私断然低スペックじゃん。

「…ぷっ」
「…へ?あ、アヤノちゃん…?」

アヤノちゃんが凄いナイスタイミングで吹き出した。私が低スペック人間ということに気付いて笑い出したのか?いや、どこぞのこいつじゃあるまいし。しかも吹き出したアヤノちゃんは笑うことを止めず、両手で顔を押さえながら笑っている。

「アヤノ?」
「ははっ!シンタロー楽しそうだね!」
「…は?」

手を取ったアヤノちゃんは満面の笑みの浮かべながら如月に向かって言った。私の他にも遥、当の本人である如月さえも言葉の意味が分からずぽかん、としていた。
私と如月がしていたのは喧嘩であって、決して楽しいものではないというのは誰が見てもやっても一緒である。でもアヤノちゃんにとっては、この喧嘩が楽しそうにでも見えたのだろうか。まさか如月に相手を蔑んで楽しむ、というアブノーマルな趣味があるとも思えない。あったら気持ち悪い。

「アヤノ!?お前どうした馬鹿にでもなったか!?」
「大丈夫!私元から馬鹿だから!」
「威張るとこじゃねぇよそこ!」

ガッツポーズをしながらアヤノちゃんはきっぱりそう言ったが、如月の言うとおり威張っては駄目なところである。褒める達人である幼稚園の先生でさえ苦笑いを浮かべるレベルだ。だから隣で気持ちいい程笑っている遥はどこかおかしい。
遥の笑いが止まってきたのとほぼ同時に、アヤノちゃんはガッツポーズで固めていた腕をゆるくほどいた。

「だって、シンタローがあんなに表情をコロコロ変えてるところなんて中々無いもの」

ふわっ、と優しく笑いながらアヤノちゃんは如月を、そして少しだけ私の方を見ながら言った。アヤノちゃんは笑っている。そう、笑っているはずなのにこっちを見られたとき少しだけびくり、とした。それは私が勝手にびっくりしただけなのか、それともアヤノちゃんから発せられている何かに反応したのだろうか?いや、前者だ。だってあのアヤノちゃんがそんなことを思ってる訳がないだろう、と自分が得をする方を選んだ。
そんなきっとくだらないと笑われるような事を考えているとぶすっとした顔の如月がアヤノちゃんと話し始めた。

「…そんなに変わってないと思うけど。楽しくねぇし」
「自分だから分かんないんだよ!シンタローは私より貴音さんの方が…」
「フザケンナ」
「貴音も楽しそうだよね〜」
「ドコガ」

アヤノちゃんがわざとらしい泣き真似で如月に、遥が花でも飛ばしそうなくらいのいい笑顔で私にそう言った。私が楽しそうなのは絶対違う。向こうはどうか知らないけど、私は少なからず遥やアヤノちゃんと話してる時の方が絶対楽しい。

「貴音さんも素直じゃないですね〜」
「素直も何も私はこいつと絡んでて楽しいなんて思ったことないって!」
「シンタローと同じこと言ってますよ!二人とも似てますね〜!」

「「こいつと一緒にすんな!」」

さすがにプツンと来てニヤニヤと笑いながら言っていたアヤノちゃんにそう怒鳴ったが、私の声じゃない声が全く同じタイミング、台詞で聞こえた。一瞬固まって声の主に目を向けるとそいつも同じように私の方に目だけ向けていた。

如月と、ハモった。

「わ〜仲良いね二人と痛っ!」
「い、いいいい今のは無し!事故!不配慮!!」

自分でも訳が分からないことを口走りながら禁句言葉を言おうとしていた遥の頭を勢い良く叩いた。でも遥は叩かれてもなおヘラヘラと笑っている。

「おい!遥先輩を殴んな阿呆が!」
「!遥ごめ…」

遥を叩いた直後に如月がそう制止をかけてきた。私は一瞬我に返って遥に謝罪の言葉を述べようとしたが、如月は振り上げていた私の両手も掴んでいた。これ以上殴らせないようにした無意識の行動だったんだろうけど私がパニック状態に陥るには十分すぎる要素だった。

「離せえええええええ!!!!」
「うぐっ!」

奇声をあげながら如月の胸に頭突きを喰らわした私は、二人が保護者の如く笑ってみていたのも、掴まれていた両手が熱くて顔も真っ赤だったのも知らない。
唯一分かるのは、如月が胸を抱えて倒れていた光景だけだ。





(有り得ないこんな奴!)





20130726

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