novel

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突然だけど、少し聞いて欲しい。
おかしいかと思われるかもしれないけど、俺は誰かを好きになるとその人以外が全て灰色に見えてしまうのだ。なんで?って言われるだろうけど俺だって分からない。端から見れば「誰とでも話せる気さくな人」っていうレッテルが貼られているだろうなって自分でも感じる。でもそんなの皆の勝手な思い込み。俺の視界は暗い灰色。いや、下手したら灰色よりもっと暗くて汚くて、息苦しいような色合いなのかもしれない。もう俺はその判断すら出来ていないようなのだ。親しい人ならまだしも俺にとって利害の無い人間なんて顔にモザイクでもかかっているような…そんな感じ。

でも俺のこの灰色の世界にたった1人、輝かしく光る人間がいる。

「…セト?」
「…っはい?」
「どうしたんだ?なんかぼーっとしてっけど…」
「ああ、なんでもないっすよ。ちょっと考え事してただけっす」
「?そうか」

ああ…可愛いなシンタローさんは!俺がどんだけ最低なことを考えてようとも何にも知らずに不安そうな顔をして心配してくれる。これだから好きなんすよシンタローさん!!!

そう。俺が唯一色鮮やかに輝いて見える、俺が恋する存在。それは如月伸太郎さん…通称シンタロー。二年間という長い期間引きこもっていたせいか、男にしては細身。女のような白い肌。案外整った顔。あんまり無いけど笑ったらとっても可愛いのだ。他にも色々あるけれど、上げはじめたらキリがないから止めておく。
とにかくそんなこんなで俺はシンタローさんに惚れている。俺の世界はシンタローさんに始まり、シンタローさんで終わる。まさしくその言葉通りである。今、俺が生きていれるのはシンタローさんがアジトに来て俺と同じ時間を過ごしてくれるお陰。え、大袈裟?いやいや、これが案外マジな話なんだよなぁ。分からないかもしれないけど。

「あれ?シンタローさん、今日はコーラ飲まないんすか?」
「ん、ああ。たまにはこういうのも良いかと思ってな」

シンタローさんとコーヒーカップ。見慣れないそのコラボレーションに、俺の心臓は少し跳ねた。いつもガラスコップに大量のコーラを注いでは一気飲みしていたシンタローさん。だからか、お洒落なコーヒーカップに入ってるミルク入りのコーヒーを少しずつ口に含むシンタローさんなんて初めて見たし、イメージも無かった。
あ、シンタローさんってこういうの飲むときはちょいちょい目閉じるんだ。熱いのかな、両手で持って飲むなんて可愛いな。シンタローさんの両手に包まれて唇にも当たってるコーヒーカップに嫉妬するなあ、あは。

端から見ればシンタローさんがコーヒーを飲んでる隣でただにこにこしてるだけに見えるかもしれないが心ではコーヒーカップにまで嫉妬する始末。唯一の俺の光だからこそ、その目は、その手は、その意識は俺だけに向いてて欲しい、…なんて。そんなこと出来ないってことは俺も分かってる。分かってるけど人に限らず物にまで腸が煮えくり返るような嫉妬心を持つ俺は矛盾している。出来ることなら今すぐコーヒーカップを粉々にして跡形もなくして捨ててしまいたいし、シンタローさんを俺の部屋に監禁したい。…いや、監禁したってキド達がいる。あ、じゃあ駆け落ちすればいい!誰にも見つけられず、永遠に2人でいれる場所に死ぬまでずっと一緒にいればいいんだ!

「セト?」
「っはい?」
「おい、やっぱお前調子悪いんじゃないか?もう部屋行って休めよ」
「…あはは、大丈夫だって」
「…聞いたぞ。今週ずっと働き詰めだったらしいな。何だよ週8バイトって。聞いたことねえよそんな数」
「……」

コーヒーカップを少々荒く机の上に置いたシンタローさんは、心配と怒りとが混ざったような目と声で俺に休めと訴えかけてくる。
確かに週8バイトは本当のことだ。最近途端に人が増えて資金も結構削られている。メカクシ団には稼ぎ口が俺しかしないから、週8でも結構削った方だ。バイトするのは別にいいけど、シンタローさんに会える時間が少なくなるのは死んでも嫌だから。だからね、怒らなくていいんすよシンタローさん。心配しなくてもいいんすよシンタローさん。正直こうやって言ってくれるのはとてつもなく嬉しいんだけどね。

「…じゃあさ、休むからシンタローさん、居てよ」
「…どこにだよ」
「そりゃもちろん、俺の傍にっすよ」

“ずっと、死ぬまで”

聞こえるか否かぐらいの声量で俺はそう付け足した。
するり、と空いていたシンタローさんの左手と俺の右手を絡める。まるで断っても離さない、とでも言うように。

「…あぁ、いいよ」

付け足した言葉が聞こえたのかは分からないが、シンタローさんは真っ直ぐ俺をその目で捕らえていた。
俺は口角が上がるのを必死で抑え、ゆっくりとソファから立ち上がる。シンタローさんの手を引いて自室に連れて行く。
コーヒーカップは…まぁいっか。後でキドらへんが片付けておいてくれるだろう。

「…もう、お前の好きにして良いぞ。セト」

その台詞が背後から聞こえて脳で理解した瞬間、俺は狂気と愛情が混ざったような笑みを自然に浮かべた。



ただ、握った手は永遠に握り返されない。


20140312

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