novel

□仄かな想い
1ページ/2ページ


―Kano side.

「今日はとても天気がいいからちょっと牛乳を買ってこい」

…と理不尽他ならない団長様からの命令で僕の優雅な昼寝タイムはおつかいタイムへと変貌してしまった。
もう…、マリーが「今日はシチューが食べたい!」とさえ言わなければ僕がこうやって買い物に駆り出されることにもならなかったのに。

そんなことを考えていたらいつの間にか帰路は終点にたどり着いていた。僕はふわぁ、と大きな欠伸をしながら107と書かれたドアをゆっくり開けた。

「ただいま〜」

奥ではキドが料理をしているのか、ほのかに良い香りが漂ってきた。
早くキドに牛乳を渡さなければ…

「…ん?」

伏せていた目を上げると、いつもならマリーが座っているであろうソファに、赤いジャージを毛布のようにして被って寝ている少年がいた。
ん?赤ジャージ…ってことは。

「シンタローくん来てたの!?」
「帰ってたのか。お前と入れ違いのようにして来たぞ」

驚いて声の音量を抑えるべきなのを忘れ、その声で僕が帰ってきていたことに気付いたキドが説明してくれた。
くっそ、入れ違いだったのか。ますます恨むよ買い忘れてた牛乳。

その牛乳を「お疲れさま」と無表情で言うキドに渡す。
キドが台所へまた戻っていったのを確認すると、安定した寝息をたてるシンタローくんを起こさないように気をつけながら向かいの空いているソファに腰掛けた。

僕と入れ違いで来たならあまり時間の差はないだろう。なのにこんなに爆睡しているということはまたエネちゃんが何かしたんだろうか。うん、十分考えられる。

そんなことを考えていたらなんか僕とシンタローくんって似てるなぁ、とふと思った。
何かしらひねくれている性格とか、目つきの悪さとか周りの人間の関係だったりとか。まあ、僕はあそこまで目つき悪いとは思ってないし、エネちゃんとかコノハを人間と言っていいのか分からないのだけれど。

僕はパーカーのポケットを適当に漁り、マリーか如月ちゃんあたりに貰ったソーダの飴を取り出した。これがマリーからだったら心の底から安心して食べれるが、如月ちゃんから貰った奴だったらちょっとばかり不安になるよ。
いや、ごめんなさい。ちょっとどころじゃないです、酷く心配です。
以前、如月ちゃんが美味しそうに何かを頬張っていたから好奇心で「少し頂戴」といったのが運の尽きだった。口の中に入れた瞬間、何とも言えぬ味で、僕は体の諸器官が危険信号を出していることだけに素早く気付き、欺きながらトイレに駆け込んだことがまだ記憶にある。あの時はまだ如月ちゃんが味覚音痴なのを知らなかったからなんの戸惑いもなく口に入れてしまったから衝撃が強すぎた。確かあの時食べた物の商品名は「七味練り込みタピオカ!ココアとチーズパウダー入り」だった気がする。甘いのか辛いのかしょっぱいのかどれかにしろよ。これを美味しく食べる如月ちゃんも如月ちゃんだが。
そんなトラウマを長々と思い出したが、十中八九マリーから貰ったんだよカノ、と自己暗示をかけつつ飴を口の中に放り込んだ。ソーダのほんのり甘い味が口の中に広がっていく。これは正解。やりました僕。とても美味しい飴をありがとう、マリー。

ソーダ飴を口内でコロコロと転がし、パーカーのポケットにまた手を突っ込むと今度はコーラの飴が出てきた。僕のポケットは四次元ポケットか大阪のおばさんの鞄と同じなんだろうか。

「コーラって、確かシンタローくんめっちゃ好きだよね」

そう僕が言葉を発するも、シンタローくんはまだ寝たままだった。
僕はシンタロ−くんに近づき、コーラの飴をジャージの上に置いておいた。僕はソーダだけで十分だからね。

「…さて、僕は何をしよう」

当初の予定通りお昼寝でもしようか。
そう思ったが、何となくまだ目の前で寝ているシンタロ−くんをもう少し見ていたい、なんてよく分からない感情が僕の脳内を巡った。

…見て、いたい?

「…は?」

いや、意味不明。

僕は反射的に重い腰を上げた。




next page→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ