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□彼の好きなところ
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「ユメはなんでカガリと付き合ってるわけ?」
食堂で、お昼の日替わりランチを今まさに頬張ろうとしてるとき、ユキナちゃんがそう言った。
私は口を開けたままの間抜けな格好で一旦動きを止めることになった。
「…? いきなりどうしたの?」
「前から不思議だったの。私だったらあんな堅物相手にできないもん」
堅物…。
確かにカガリくん、真面目だからなぁ。失礼ながら常に気だるそうにしてるユキナちゃんとは反りが合わないのかな。なんてのんきに考える。
「で、なんであいつと付き合ってるの?」
「え?…なんでだろ。好きだから?」
「それは理由にならない!具体的にどんなとこが?」
「えー…」
私がカガリくんを好きな理由か…。
気付いた時にはもう好きだったから、これ!っていう理由はないな。
カガリくんはかっこいいし、もちろん性格だって誠実で、私のことちゃんと考えてくれてるって伝わってきて。あとは…
「やっぱり、優しいとこかなぁ…」
「優しい?!あいつが?!」
ユキナちゃんが心底驚いたような顔をする。
それにむしろ私が驚きなんですが…。
「うん、道で必ず車道側歩いてくれたり、重い物持ってると代わってくれたり…紳士的だよね」
デートしてる時とか、仕事中に気遣ってもらった時とか、ちょっとしたことでカガリくんの優しさを感じたりする。
「紳士…的……」
「? どうしたの?ユキナちゃん」
「…任務中の姿を見てるとね…どうしてもあいつを優しいなんて思えないわ」
「カガリくん、任務中はどんな感じなの?」
「………………」
そういえば、任務中のカガリくんだけは見たことないなぁ、と思って聞いたら。
考えこむユキナちゃんの顔がだんだん青くなっていく。
え、なに…?
「…ま、まぁこれはもういいわ!他にはないの?」
他…。うーん…
「あ。あと、意外と甘えんぼなとことか」
「甘えんぼ?!」
「うん。カガリくん普段は真面目なのに二人になるとすぐ抱き着いてくるの。なんか意外だよね」
「いやいやいやいや、意外ってレベルじゃないわよ…!あいつが甘えてるとこなんて想像つかないし…!」
「まぁ、私も最初はビックリしたよ」
「いや、それ以前にユメはあいつの本性を知らなすぎ!」
「え?」
本性?なんのことだろう。
もしかして、私といる時のカガリくんは素じゃないってことなのかな?
(私らに対するカガリの無慈悲っぷりったら…魔物目の前に放置プレイは当たり前だしすぐ置いてかれるしあげく一人で魔物ぶった切るし…)
「ユキナちゃん?どうしたの?」
「あのねユメ、カガリってほんとは…」
ユキナちゃんがそんなことを考えているとは露知らず。
私は真剣にその後の言葉に耳を傾けた…が、突然ピシリと凍り付くように動きを止めたユキナちゃんに首を傾げた。
「あ、わ、私やることあるんだった!今の話忘れて!じゃっ!」
「え?うん、ばいばい」
ガタガタと慌ただしく立ち上がって食堂を出ていってしまった。ご飯、まだ途中だったのに。
あんなに焦って行っちゃうんだから、よっぽど大事なことなんだろう。大変だなあ、
「ユメさん」
私も私で、食事を再開しようかと思ったとき、聞き慣れた声が耳に入って、思わず頬が緩んだ。
「おかえり!今ね、ちょうどカガリくんの話してたんだよ」
「そうでしたか。…で、一体どんな?」
「えーっとね…」
任務から上がったばかりなのか、刀を下げたカガリくんがいて。報告の前に寄ってくれたのかなあと思うと同時に、やっぱり優しいなあと思う。
綺麗に笑って相づちを打つカガリくんに、私はこの人の彼女でよかったなあと改めて思った。
「ユキナさん」
「げっ、カガリ…!」
「ユメさんに余計なことを吹き込もうとしましたね?」
「な、なんのこと?さっぱりわかんないなぁ」
「食堂で、話してましたよね」
「え、えーっとお……?」