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□俗に言うツンデレである
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俺の彼女、ユメちゃん。
ちょっと口は悪いけど、顔は可愛い。細い体に白い肌、潤みがちな大きな瞳、そりゃもう例えるなら天使。
つまるところ、ユメちゃんは一般的に見たらそこらのアイドルよりもアイドルらしい容姿をしている。
中身だって、口が悪いのは単に照れ屋なだけで、本当は優しい子だ。

本来俺みたいなオタクとは到底かけ離れているような、そういう存在。


だからときどきわからなくなる。
ユメちゃんはなんで冴えない俺なんかと付き合ってるんだろうって。
それがここ最近の俺の悩みでもあるわけだけど。





「なにこれ」


いつものように部屋に遊びにきたユメちゃんにお茶を出したら、不機嫌そうに顔をしかめた。俺はそれに少しだけぎくりとして、でも悟られないよう苦笑いする。


「私いまお茶って気分じゃないのよね」
「あ、ごめん気付かなくて…何がいい?」
「コーラ」
「うん、ちょっと待ってて」
「はやくしてよねー」


今日も女の子らしいヒラヒラのワンピースを違和感なく着こなし、俺の部屋のベッドに座って雑誌を読むユメちゃんは可愛い。

ユメちゃんがそうしている間、俺はというと、パソコンやったり機械いじったり。
これといって会話らしい会話をすることもない。
恋人らしいことは、まあ…たまにユメちゃんの許可がおりたときに。

端から見たら妙な絵面だろう。


頼まれたコーラをユメちゃんの前に置いて、ちらりと様子を伺う。
今なら大丈夫、かな。いやでも……いや、女々しく迷ってる暇があったら聞いてしまおう。


「ユメちゃんはさ、何で俺と付き合ってるの?」


勇気を出して聞いてみたあと、少しの間。無駄に緊張する俺。
彼女は読んでいた雑誌をぱたりと閉じて、


「帰る」
「!?え、ちょ…何で!?待っ…」
「じゃま、ついてこないで」
「い、嫌だ!待ってごめん、ごめんなさい俺が悪かったっ!」


声からしてわかる、これはかなり不機嫌だ。
どこかのブランドのおしゃれなカバンを引っ付かんだユメちゃんは本当に出ていってしまった。
もちろん、俺は追いかける。
情けないけど、彼女に見放されないために。

玄関につく前にユメちゃんは止まって、振り返って俺を睨み上げる。
怒った顔もかわいい、とは今は言えない。


「二度とくだらない質問しないでよ」
「く、くだらない…って…?」
「…わかんない?」
「えっと…」


ごめん、わからないや。
くだらない、と言われたことに内心ショックを覚えつつ正直に答えると、ユメちゃんはいっそう顔をしかめた。
あ、また罵られるのかな、俺…。
心に無遠慮にグサグサ刺さるであろう言葉のナイフに備え、俺は覚悟を決めた。…が、


「っ、好きだから付き合ってるに決まってるでしょ…。それ以外に何があんのよ、ばあか」


……あれ、痛くない。

強いて言えば、恥ずかしさからか放たれたユメちゃんの拳が鳩尾に見事に埋まって痛い。物理的に。

ていうか、あれ、なんかすごい美味しいこと言われた気がする。
俯いているユメちゃんを見下ろすと、耳が真っ赤だった。どうやら、聞き間違いじゃなかったみたいだ。


「………」
「……な、なんか言ったら」
「ユメちゃん」
「!なっ、なに…」
「キスしていい?」
「えっ」


返事を聞く前に、驚いて顔を上げたユメちゃんの唇に、自分のを重ねた。

なんで。この子は。こんなに。かわいいの。
という気持ちを込めて。

殴られるかな、と思ったけど衝撃は来ない。ただ、ユメちゃんの体が強張っているのがわかったのですぐに離れた。急ぎすぎて怖がらせるとか、嫌だし。


「えっと」


沈黙。

……キスした後ってなんでこんなに気まずいんだろう。
いっそユメちゃん、いつもみたいに罵ってくれないかな、そういう気持ちも込めてユメちゃんの顔をちらりと伺う。
すると、彼女は俺の意に反してこう言った。


「黙って続きしたら?」


頬染めのオプション付きで。



……俺どうにかなりそう。







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