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□ 理想と現実
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タケハヤ×アイテル要素






「タケハヤ…はやく良くなって…」
「ああ、ありがとうな、アイテル」


タケハヤさんとアイテルさんを見ていて思った。
二人はなんて素敵なんだろう、と。






「…あんな風になれたらなあ」
「あ?なんか言ったか?」
「別に、なにも」


ふーん、なんて素っ気ない返事をしてまた本を読み始めたサイを横目に、私は相変わらず同じことを考えていた。

タケハヤさんとアイテルさんは、誰かどう見てもお似合いだ。
私としては微笑ましい。二人で静かに話しているのを見るとお互いのことを思い合っているのが伝わってくるし、大っぴらに恋人らしいことをしてるわけじゃないのに、二人の間には絶対の絆のようなものが見える。そういう関係は、是非とも女子としては見習いたい。けど。


(無理だろうな…)


二人は大人だし、それにいくら私が頑張ったところでサイはなんにでも「は?」でしらけるだろうから。



それにしてもアイテルさんは、タケハヤさんに何があっても落ち着いてるんだなあ。私もあんなふうに落ち着いた女性になれたらなあ………



**



それからしばらく日が経ったある日のことだ。
外で任務中の13班が重傷を負ったと都庁に知らせが入ったのは。


「サイ!」


私は走った。
運び込まれてきた担架に乗っているのは、信じたくはなかったけどサイだった。どこを怪我してるのか分からないくらい、全身は血まみれで、意識がないみたいだ。


「うそ、なんでこんな…」
「…う…、ユメ…?」
「!そ、そうだよユメだよ!分かる?」
「あー…なんだこれ…いってぇ…」


目覚めた途端一気に痛みが来たのか、サイは青ざめて顔をしかめた。そりゃそうだ、こんなに血が出てるんだから…

意識が戻ってよかったと思ったのも束の間、サイは再び目を閉じる。力なく下がった腕に、嫌な光景が頭によぎった。


「寝ちゃだめ!起きて!」
「む…りだっ、て…」
「やだぁ!私を一人にしないでよ!」


サイが死んだら私はどうなるのか。
想像したくもない。ここに来てからずっと一緒にいたのに今更いなくなるなんて!

サイが薄目を開けて、私を見た。
涙が滲んで、大声で泣きたくなる。


「サイ、死んじゃだめだよ…!」
「……ああ…」
「でももしあんたが死んでも私、ずっと好きでいるから!だから」
「ユメ…」
「な、なに?どうしたの?」
「…おまえ……うるさいよ……」
「………は?」


ムードもへったくれもない、ただただ煩わしそうな言葉に、私は思わず立ち止まる。

そして立ち尽くしたその先、彼が運ばれていったのは手術室でも処置室でもなく、……ただの病室だった。









「傷自体は大したことありません。落下した際の打撲と切り傷です」


淡々と、カルテに記入しながら私に告げる医者。
その間、私は終始呆然としていた。


「で、でもあんなに血が…」
「あれは血ではなく魔物の体液ですね。どうやら特殊なものだったようで、今は状態異常で昏睡してますがそのうち目覚めるでしょう」
「…はあ…」


やはり淡々と説明して出ていった医者。
病室に残されたのは妙に疲れた私と、白いベッドでぐーすか眠るサイだった。
本当に何もない。
処置と言えば腕に軽く包帯と、(魔物の)血で汚れていたいつものパーカーを脱がされているくらいか。


「なんてこと……」


まさか重傷が誤報だったなんて。
ちなみに、残りの13班も無傷で無事に帰還したらしい。どうやらサイが調子に乗って、一人で少し高いところから落ちたというだけの話らしい。


それにしてもこっちの気も知らないでなんて幸せな寝顔…殴って起こしてやろうか…!
と、ひそかに拳を握りしめていると、隣のベッドを覆っていたカーテンが開いた。


「よ」
「あ、タケハヤさん」


そういえば彼もこの病室だったことを思い出し、慌てて拳をしまった。


「いやいやなかなか情熱的なお嬢さんだ。廊下からここまで丸聞こえだったぜ?」
「ちょ…!!忘れてください!全部!!」


ニヤニヤしながら言ってくるタケハヤさんに思わずそこらにあった花瓶を振りかざすと、彼は少し怯えた様子で誰にも言わないと約束してくれた。

にしても、全部聞かれてたなんて。
恥ずかしすぎる…!!


「なんつーか、お前…」
「…なんですか?私が早とちりのバカだって言いたいんですか?」
「いや。お前、ホントにこいつのこと好きなんだな」


羨ましいよ。


感心したように真顔で言ったタケハヤさんに、私は改めて自分の行動を思い返して赤面した。
端から見たら私の慌てっぷりはめちゃくちゃだっただろう。勘違いして廊下で好きだとかなんとか叫びまくったし。


「くっそー…」


とりあえず、私を慌てさせた彼が起きたらまず殴ってやるとしよう。




おわり。









とりあえず夢主にベタな台詞を言わせたかった。


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