魔法旅行記ブック
□第四言
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「ところで、君たちの名前をまだ聞いていなかったな」
「名前ですか、姫ちゃんは紫木一姫って言うですよ!」
「……あー、と」
僕は自らの名前を言うことを悩んだ。
「……僕は他人に本名を教えたことが一度しかないのを誇りに思っているんです。なので、《いーくん》《いっくん》《いーたん》《いの字》《いー兄》《いーの》《いのすけ》《いーいー》《戯言遣い》《詐欺師》《欠落製品》 どれでも好きなように呼んでください」
僕がそう言うとディペットさんは困ったように苦笑した。
「わかったいーくん。 あぁそれと今から組分けが有るから、大広間に行ってくれ」
返事をして姫ちゃん共に大広間に向かう。
事前にディペットさんに大広間への行き方は教えてもらった。
「おっきい扉ですねぇ」
姫ちゃんが大広間の扉を見上げしみじみとした感じで言った。
「そうだね。姫ちゃんもうすぐだよ」
ギィ
僕の言葉が終わった時絶妙なタイミングで扉が開いた。
大広間からは拍手が聞こえる。
「ほら、行くよ姫ちゃん」
呆然と立っている姫ちゃんの腕を引っ張り、進んで行く。
「は、はいっ」
まぁ姫ちゃんが呆然としている理由も分かる。
大広間に天井には幻想的な星ぼしが浮かんでおり、時折流れ星が堕ちてくる。
「本校始まって以来の東洋人の編入生だ。皆分からないことがあるだろう彼らに色々教えてやってくれ。」
ディペットさん、いや校長の言葉に拍手を送る生徒達。
「それでは組分けを始めよう。」
そういって校長が持ってきたのはボロい帽子。
え?
こんなぼろっちぃ帽子をなんに使うんですか?
僕ではない。姫ちゃんの顔がそういっていた。
「イチヒメ、まずは君からだ」
校長がその帽子を姫ちゃんに被せた。
帽子が姫ちゃんの頭の上で唸っている。
…なんか変な光景だな。
『スリザリーン!!』
ディペットさんは姫ちゃんの組分けを聞き戸惑っていた。
まあ、そりゃそうだろう。
聞いた話じゃスリザリンは闇に近い、そして純血主義みたいだし。
……多分純血の部分は姫ちゃんには関係無いだろう。
「次にいーくん」
ディペットさんに則され椅子に座ると帽子を被された。
《ふーむ。さっきの子といい、君といい、難しいな…》
《……僕は何処でも良いな。》
《…君は、人生を謳歌したいとは思わないのかね?》
《…………そんなこと思ったこともないな……》
《そうか、……そんな君にはグリフィンドールが良いだろう!》
…《それ、絶対僕には合わないと思うよ?》
『グリフィンドール!!』
ワァー!!
グリフィンドールの席と思わしきところから歓声と拍手が聞こえた。
決まってしまってものは仕方がない。
椅子から立ち上がり、グリフィンドール席に向かう。
ちらりとスリザリン席を見る。
一人だけ孤立したように座っていた。
姫ちゃんと目が合ったので手を振る。
ここからでも分かるぐらいパアァァアと顔を耀かせていた。
はあ、先行きが心配だ。
そんな僕を赤い瞳が見つめていたなんて僕には知るよしも無かった。