虹物語

□第3Q「青菜みたいなのいる」
1ページ/1ページ




(橙河 伊織の場合)




伊織(でっ…か…)


伊織は驚愕していた。
入学式,晴れて秀徳高校の生徒となった彼女は自販機の前で固まっていた。


伊織(なんか青菜みたいなのいる…)


隣の自販機の前にいるのは,髪が緑の男。



伊織(でっか…うわでっか!!何これ日本人?Are you a Japanese?)←身長150cm



隣の男の、あまりにも高校生離れした身長に動揺を隠しきれず,ちらちらとそちらを見てしまう。


伊織(ちょっと待っておかしいよ。僕身長146cmなんだけど?ちょっとくらいさ…神様…ちょっとくらいこの人の…)



伊織「この人の分けてくれたっていいじゃん!!」


緑間「な,…何だいきなり。」


伊織「あ。」


しまった。心の中の言葉を口走ってしまった。
訝しげに眉をひそめ見られればぎこちなく笑み誤魔化そうとする伊織は,


伊織「えっと…あの,そのお汁粉美味しそうだなってさ。あはは。」



ちょうど相手の手にあった小さな缶を軽く指差す。
そう言い訳するやいなや,



緑間「それくらい自分で買えば良いだろう。」


ごもっともな意見で返された。


伊織「そ,それは…」


まさに図星であり,顔をそらして不意に自販機を一瞥すると,


伊織「…嘘,だろ…?!」


再び一瞥。
そして驚愕に目を見開いた。


伊織「嘘だ…僕は信じないぞ…



自販機の一番下の段が売り切れてるだなんてぇぇぇえ!!」


絶望だと頭を抱え膝から崩れ落ちる。
伊織の身長からして自販機のボタンに手が届くのは下から二段目まで。

しかし二段目には炭酸類ばかり。
伊織は炭酸は飲めない人間だった。刺激が強すぎて飲めないのだ。



伊織「やるしかないか…よしっ。」



意を決して,矢継ぎ早に硬貨を入れ一番上の段のボタンに左手を伸ばす。しかし見た目若干小学生かせめて中学生。中学生だとしても一年生くらいにしか見えない彼女は背伸びを通り越して爪先立ちでも厳しい。
こんなにも自販機は高かったっけなどと
思いながら限界を超えてさらに手を伸ばす。
そして触れる。押す。



伊織「…!」



…買った。勝った!
歓喜に震え,満面の笑みを浮かべたと同時に,


伊織「いっ…!」


不安定な体勢を支えていた左足がつった。支える力を無くした伊織の体は重力にそって傾いでいきーーー…


伊織「…?」


覚悟していた痛みが来ず,不思議に思い恐る恐る閉じていた双瞼を開くと,視界に緑色が見えた。

それはさっき隣の自販機の前に立っていた頭が青菜の男だった。呆れたように息を吐けば,さっさと立てと言わんばかりに鋭く眼鏡が光る。何故か若干不機嫌に見えた。



伊織「えと,…ありが」


緑間「100円だ。」


伊織「はい?」


緑間「100円を寄越せといっているだろう。」


伊織から視線を外して見た先には,無惨に中身がぶちまけられたお汁粉。
彼女を助けるためにそのお汁粉を犠牲にしたらしい。つまりその分の,お汁粉100円を要求してきたということで。

すぐに状況を把握して慌てて自分のポケットから取り出した伊織の所持金は,




20円。



伊織「…」

緑間「…」



絶望にも似た沈黙。


緑間「はぁ…もう良いのだよ。」


相手にすること自体馬鹿らしいと思ったのか,ほぼ中身のないお汁粉の缶を拾い踵を返して緑間は歩き出す。


伊織「ま,待って待って!!お金返す!返すから!!名前,教えてよ!!」


遠ざかる背中に叫ぶと,


緑間「緑間 真太郎だ。」


とだけ,声が返ってきた。


伊織「緑間…真太郎…?」


ぽつりと名を呟くと,何処かで聞いたような聞いていないような感覚に思考を奪われ, 伊織は暫く呆然と立ち尽くしていたとかなんとか。









伊織(どこで聞いたんだっけ…)
緑間(まさか同級生なのか…?←衝撃)


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ