虹物語
□第1Q「出逢い」
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(藍多 凛 の場合)
凛「…失礼しました。」
凛は相手に聞こえるか聞こえないかの、蚊の鳴く様な囁き声でぽつりと呟くと、恭しく頭を下げ保健室を後にした。
長い藍色の前髪を顔が隠れるように調節してから、俯いたまま彼女は歩き出す。
彼女は昔から他人が、怖かった。
特に、他人の自分を見る目が。
だから何時も下を向いて、
相手から目を逸らして、顔を隠して。
黒子「藍多さん。」
ふと、抑揚は無いが、何処か暖かみのある言葉が降ってきた。
凛「、黒子くん…」
聞き覚えのある声に顔を上げる。
目を合わせるまではいかないが、彼女にとっては全くの他人よりかは素直な反応だった。
黒子「大丈夫ですか?」
相変わらず表情の少ない顔だが、微かに眉根が心配しているらしく下がっている。
凛「すみません。迷惑をかけてしまって。…人混みはまだ慣れません。」
彼女は酷く他人に対して臆病な気質だ。
故に、校門辺りの激しい勧誘に心が耐えきれず、気分が悪くなった次第であった。
凛「ところで黒子くんは、やはりバスケ部に…」
黒子「はい。そのつもりです。」
凛「……ッ…そう、ですか。」
黒子「そんな顔しないで下さい。藍多さんは悪くありませんから。」
酷く泣きそうに顔を歪ませる凛の頭に優しく頭を乗せて黒子は相手をなだめる。
が、その後少し悲しそうな顔になり、
黒子「藍多さんは、部活はどうするのですか。」
凛「わた、私…は…」
バスケ部に入らないのですか、と言う問いではなく、どうするのか、と言う問い。
バスケ部と言うプレッシャーを無くした言葉に、動揺に声を震わせながら、
凛「まだ……わかりません。ごめんなさい…。」
ぐ、と拳を握り締めた。
凛(…まだ、怖い。)