虹物語
□第36Q「好き。」
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黄瀬「……。」
椿姫「……。」
二人だけの、帰り道。
今まで経験したことの無い気まずさに、椿姫はただただ閉口するしかできなかった。このままずっと、沈黙が続けば良いのに、というのは、儚い願いだった。
黄瀬「一応、俺、告白したんスけど。」
椿姫「………。」
声は、どこか苛立ちと気まずさをぐちゃぐちゃに混ぜこんだように感じた。
黄瀬「この前はいきなりあんなことして…ごめん。でも俺は椿姫っちのこと…」
椿姫「まっ…待って。」
ぐちゃぐちゃな思考回路、震える声。
椿姫「…わ、分かんないの、私。」
黄瀬「…。」
椿姫「私…初めて会ったとき、黄瀬に酷いこと言った。」
黄瀬「それはもう…」
椿姫「私、黄瀬みたいに明るくなれないし、全然オシャレじゃないし、ひねくれてるし、だから、黄瀬の隣に私はいれないし、私は、私は……!!」
とどめなく溢れる涙と言葉。
堰を切ったように止まらない。
椿姫「違う、違う、そうじゃ、なくて…」
どうすれば良いか、分からない。
何を言えば良いか、分からない。
本当に伝えたいこと、それは何?
黄瀬「…確かに、初対面の印象はサイアクだったけど、でも、向き合ってみて分かったんス。ちゃんと椿姫っちのこと知って、椿姫っちと一緒にいたいって思ったんス。」
ーーー嗚呼、そうか。
私はずっと、怯えていたんだ。
向き合っても、その一歩を、踏み出せていなかったんだ。
椿姫「黄瀬は、何があっても、私の傍にーーーいてくれる?」
黄瀬「…勿論っス!」
頬に添えられた手が、温かい。
無邪気な笑顔が、眩しい。
やっぱり、
ずっとずっと寂しかったんだ。
ずっとずっと楽しかったんだ。
ずっとずっと嬉しかったんだ。
君がいてくれたことが。
椿姫(今までは怖くて、どこかで人と触れあうのを最低限にして避けてた。
でも、逃げるのはもうやめる。これはきっと、その一歩なんだ。)
椿姫「ねぇ黄瀬。」
黄瀬「なんスか?」
すう、と大きく息を吸って、涙を拭って、
1、2の、3。
椿姫「好き!!!!!」
たった二文字の単純な言葉。感情。
何で今までは言えなかったんだろう。
椿姫(でもまあ、そんなことは良いや。)
椿姫は突然のことに呆気にとられる黄瀬の手をとって、
椿姫「不束者だけど、よろしくね?」
申し訳ないような嬉しいような、そんな笑みを浮かべた。
椿姫(本当は聞きたいこと、謝りたいこと、分からないこと、たくさんあるけど、
きっと黄瀬が傍にいてくれるから、
ゆっくり考えていこう。)
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