七つの大罪
□自覚と変化と恋心
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「お、また行くのか? ゴウセル」
「ああ」
任務終了後、団長達と別れて城の裏庭へ足を向ける。最早日課だ。
裏庭に到着すれば、いつもの木の下に座る蒼い髪の少女。俺の姿を見つけて、ふわりと微笑む――のだが、今日は違った。
どこか浮かない顔で、普段はノースリーブの服の襟に隠れている首筋に触れていた。
その指先にあるのは、〈七つの大罪〉の獣の印のように刻まれた、黒い三日月だった。
―――まるで、降り積もった雪に、真っ黒なインクを落としたような―――。
「……リリス……?」
思わず零れた小さな声に、びくりと肩を震わせ、こちらに顔を向けるリリス。
『ゴウセル……』
表情が驚きから安堵に変わる。だが、声をかけた瞬間、彼女が襟で首筋を隠したのを、俺は見逃さなかった。
『びっくりした……いつから、っ!?』
鎧を脱いで、立ち上がろうとするリリスの手首を掴めば、再び驚きに変わる表情。
「…何を隠している?」
『―――……』
曇る顔。逸らされるサファイアの瞳を、長い睫毛が覆った。
「――…いや、前言撤回だ。言わなくていい」
『え……』
手首をそっと離し、その手で呆然としている彼女の頭を撫でる。
「震えている……すまない」
そう言われて、リリスは自分が小さく震えていることに気づいたようだ。どうやら無意識だったらしい。
『ゴウセルのせいじゃないって……私こそ、ごめん……』
「何故謝る?」
言いながら、質問を質問で返したそうなリリスの隣に座る。
「人には1つや2つ、隠したいことがあるものだと本に書いてあった。言いたくないのなら、隠しておきたいのなら、俺は何も聞かないし、聞くつもりもない」
それでいいだろう?
そう 意味を込めた視線を送ると、至近距離で目が合った。
『……やっぱり、ゴウセルって優しいね』
ぽつりと呟かれた言葉に、首を傾げる。
「優しい……? 俺がか?」
『うん。……ねぇ、ゴウセル』
何の迷いもなく即答し、リリスは俺の手に自分のそれを重ねた。
「……何だ?」
『……私には確かに話したくないことがあるけど……でも、お願い……
―――私を、独りにしないで…』
「……!」
思わぬ懇願に目を見開く。その声は僅かに震えているように聞こえた。
『独りは、嫌……』
そう呟き、重ねた手に力を込めるリリス。俺は手のひらを上にして、そっと握り返した。
「約束する」
『…ありがとう』
そう言ったリリスの顔は、とても儚げで。
それでも、これまで見た中で一番綺麗だと思える笑顔だった。