FAIRY TAIL
□この手で掻き消せるなら
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『……いなくならないでよ』
マルド・ギールの胸板に顔を埋め、背中に腕を回している彼女は、小さくそう呟いた。
「フィネア……」
聞いたことのない悲痛な声に、らしくもなく焦る。よくよく神経を集中させてみれば、か細い腕は細かく震えている。
何故こうなったかと聞かれれば、話は僅か数分前に遡る。
―――――
「……フィネアか」
いつもの如くENDの書を抱えて玉座に座っていると、最近よく姿を現すようになった傍観者の気配を感じた。目を開けると、真っ暗という訳ではないが、それほど明るくもない空間に溶け込むような黒い姿が視認出来た。
『冥王、さん……』
「……?」
何か様子がおかしい。表情は前髪に隠れて見えないが、声に覇気が無いというか、どことなく沈んだ雰囲気を纏っている。
「フィネア…どうし、!」
ふらりと覚束ない足取りでこちらへ近づくフィネアを見て、思わず立ち上がる。今にも倒れそうな体を支えようとすると、一瞬僅かに揺れた視界から傍観者の姿が消える。視線を下ろすと、漆黒の長い髪があった。
「……フィネア……」
『……いなくならないでよ』
「……!」
――そして、今に至る。
面と向かってマルド・ギールに「いなくなるな」と言っているのだから、マルド・ギールが関係していることなど、誰でも分かる。フィネアがこんな姿を見せるくらいだ、余程不安になることがあったのだろう。
「……」
そっと、長い黒髪を撫でるように梳く。すると、背中に回されていた腕の力が弱まった。