FAIRY TAIL

□この手で掻き消せるなら
1ページ/3ページ

『……いなくならないでよ』


マルド・ギールの胸板に顔を埋め、背中に腕を回している彼女は、小さくそう呟いた。


「フィネア……」


聞いたことのない悲痛な声に、らしくもなく焦る。よくよく神経を集中させてみれば、か細い腕は細かく震えている。


何故こうなったかと聞かれれば、話は僅か数分前に遡る。


―――――

「……フィネアか」


いつもの如くENDの書を抱えて玉座に座っていると、最近よく姿を現すようになった傍観者の気配を感じた。目を開けると、真っ暗という訳ではないが、それほど明るくもない空間に溶け込むような黒い姿が視認出来た。


『冥王、さん……』

「……?」


何か様子がおかしい。表情は前髪に隠れて見えないが、声に覇気が無いというか、どことなく沈んだ雰囲気を纏っている。


「フィネア…どうし、!」


ふらりと覚束ない足取りでこちらへ近づくフィネアを見て、思わず立ち上がる。今にも倒れそうな体を支えようとすると、一瞬僅かに揺れた視界から傍観者の姿が消える。視線を下ろすと、漆黒の長い髪があった。


「……フィネア……」

『……いなくならないでよ』

「……!」


――そして、今に至る。


面と向かってマルド・ギールに「いなくなるな」と言っているのだから、マルド・ギールが関係していることなど、誰でも分かる。フィネアがこんな姿を見せるくらいだ、余程不安になることがあったのだろう。


「……」


そっと、長い黒髪を撫でるように梳く。すると、背中に回されていた腕の力が弱まった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ