FAIRY TAIL

□花と蝶
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『…あ』


たまには外に出ようと思い、隠れ家のある森でマルド・ギールと散歩をしてきた帰り。ふと、視界の隅に鮮やかな赤色が映った。


「どうした」


マルド・ギールの怪訝そうな声を背中に聞きながら、赤に近づく。そして、咲き誇る大輪のそれにそっと触れた。


『見て、薔薇よ。野生で咲いてるの、久々に見たわ』

「……好きだな」


若干呆れたような声音と共に、草を踏み分ける音が近づいてくる。


『そういうマルド・ギールは、あまり興味無さそうね』

「ああ」

『……植物系の呪法使うのに』

「聞こえているぞ」

『それは失礼』


振り向かないまま謝っておく。本当は聞こえるように言ったんだけど、そんなことを言ったら荊が飛んできそうなのでやめよう。


「さながら、花――に――れた―だな」


綺麗な薔薇を見つめていると、マルド・ギールが何かを呟いた。しかし、よく聞き取れなかったので、振り向きながら聞き返した。


『何か言った?』

「何でもない。そろそろ帰るぞ」

『あ、待って』


踵を返して歩き出したマルド・ギールの後を追う。故意なのか無意識なのか、ゆっくり歩いてくれていて、すぐに追いつくことが出来た。そのまま彼の腕に自分のそれを絡める。


「! ……どうした、いきなり。離れろ」

『嫌?』

「歩きづらい」

『……前から思ってたけど、女心が分からないタイプよね』

「余計なお世話だ」


そんなことを言いつつも、歩く速さは先程と変わっていない上に、腕を振り払おうとはしない。


『……何だかんだ言って優しいんだから』


だからますます好きになってくのよ。


そう意味を込めて呟くと、私の歩幅に合わせてくれていた足がぴたりと止まる。怪訝に思う間も無く、顎を指で掬われた。


『!?』

「前言撤回だ。蜘蛛の(わな)に引っ掛かった蝶だったな」

『ど、どういうこと?』

「お前のことだ」


意味が分からない。比喩なのだろうが、私と蝶のどこが似ているのか。いや、蝶の呪法は使うけれども。


「先程のお前は、花の匂いに誘われた蝶さながらだったが……マルド・ギールの前では、蜘蛛に捕らわれた蝶同然だな」

『……それ、蜘蛛はマルド・ギールと捉えていいのよね』


まさに今の状況だわ。当の本人は涼しい顔をして、私の髪を指で弄んでいる。


『ああ、いつ こんな質が悪い蜘蛛に捕まったのかしら』

「褒め言葉にしかならんな」


この男に皮肉は通用しないのか。分かっていたことだけど。


「フィネア」

『…!』


名前を呼ばれて顔を上げると、そっと唇が重なる。静かに離された時、目の前には勝ち誇ったような不敵な笑みがあった。


「逃れようなどと思うなよ?」










(蜘蛛)と蝶



(逃げるつもりなんてないし、そもそも逃がしてくれないじゃない)(ようやく捕まえた美しい蝶を手放す訳がなかろう)(……花で誘き寄せて糸を掛けるなんて卑怯ね)(それも褒め言葉だな)



fin.
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