千年の序章を終わらせる者

□1 トリップ
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 それは、最近毎日のように見る夢からの始まりだった。






 真っ赤な、どこまでもどこまでも続く果てしない荒野。




 夕焼けのようなにごった赤色の空。




 夢なのに、リアルに頬を撫でる乾いた風。





 そして、その広い荒野にぽつんと佇む、一つの黒い影――。









 目が合う瞬間、いつものように現実に引き戻された。









**


ジリリリリリリン・・・ジリリリリリリン・・・


「・・・・・」

 うっすらと目を開け、ユキはぼうっと天井を見上げて呆けていた。
 けたたましく鳴り続けている時計を止めようと手を伸ばし、そこでようやく自分がベッドから落っこちていることに気がついて、

「・・・・・んあぁ・・・・・?」

 変なうめき声を上げてのろのろと体を起こした。

「首いったぁ〜・・・・・」

 たぶん落ちたときにぶったであろう首をさすりつつなり続けている時計を止めて、ユキは大きく伸びをした。

「また変な夢だよ・・・・・何回目だろ」

 最近になって急に見始めた、あの荒野の夢。いつも何もなくて、人もいなくて、まるで世界の終わりを見ているかのよう。

「・・・・・」

 そこで机の上に出ていた単行本に目がいき、ユキは思わず苦笑した。

「ふふ、Dグレの世界じゃあるまいしね」

 単行本を手に取り本棚に戻して、ユキは朝ごはんを食べるために居間に下りていった。




**



(それにしても、ホントになんだろう、あの夢・・・)

 朝の早い静かな道を、いつものように学校へ向けてユキは一人で歩く。

 考えれば考えるほど謎の多い夢だと思う。砂漠でもなくて、たぶん今の地球上に存在する姿でもない。

「・・・だとしたら、やっぱり世界の終わり?」

 そう言ってみるも、やっぱりなんだか違う気がして納得いかなかった。
 予知夢にしても、一体何百年後のことなのやら。

 そのときだった。










時ハ・・・満チタ・・・










「・・・・え?」

 何か聞こえたような気がしてユキは足を止めてあたりを見回す。しかし、

「あれ・・・・なにこれ」

 そこで異変に気がついた。
 目の前に立ち込める濃い霧に、ユキは思わず後ずさりしてしまった。

「さっきまでこんな霧なかったのに・・・・」

 自分の一メートル先でさえ何も見えないほどの濃い霧だった。塀も電柱も家もどこにも見えない。
 ユキはいつもなら塀のあるはずの方向へ走り出すも、息が切れるくらい走っても続くのは落ち葉の生い茂る地面――。

「・・・・・・な、んで」

 それに気づいた瞬間、ユキは唐突に怖くなった。ユキの住む街はそれほど大きくなくても都会に面していて、地面はすべてアスファルトのはず。

「・・・っ、誰か・・・・・・誰かいませんか!?」

 顔を上げて大きな声を出すも、木霊して遠くに消えていく自分の声。そこに見えたのは、自分の住む街には決してあるはずのない大木が聳え立っていた。









 そこは、街ではなく薄暗い夜明け前の森の中だった。







**







「い、一体・・・・・・なにが、どうなって・・・・」

 息も絶え絶えにユキは大きな木の根元に座り込み、鞄を放り投げて背中を預けた。

 あれから30分ほど歩いたり、走ったりしてあたりを探索してみるも、在るのは大きな大木ばかり。
 おまけに山ではない平面続きの森の中だからどっちへ行けば抜けられるかなんて保障もない。

「川もないし動物も見当たらないし・・・・・一体ここはどこなんだよ〜」

 川でもあれば下へ向かって歩いていれば抜けられるはずなのだが、なにせ物音ひとつしない不気味な森だった。
 動物の動く気配や鳥の鳴き声くらいしてもいいはずなのに。



 ・・・ただ一つよかったことは、混乱気味だった頭が少しずつ冷めてきたことだった。

「やみくもに歩いても、体力を消費するだけ・・・・・。ここは日本、少なくともあたしのいた街じゃないし、こんな木みたことないし」

 木を仰いで見るも、やっぱり街に生えているような木じゃない。第一、学校までの距離を歩いていて今までにこんなことは一度だって起こったことはない。

 そこまで冷静に分析して言えることと言えば、




「あたし・・・・・やっぱりトリップってやつをしちゃったんかな」



 至極真面目にユキはそう呟いてしまった。
 

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