千年の序章を終わらせる者

□6 へブラスカの予言
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足を乗せて歩くたびに、水面にゆらゆらと波紋が広がった。

「お待ちしておりましたわ。室長」

「やあ、おまたせ。フェイ補佐官、へブラスカ」

水のあるヘブラスカの間に到着し、コムイが天井から掛かっている薄いヴェールの向こうにいるヘブラスカとヘブラスカの前に立っている女性に声をかけた。

「コムイか・・・」

「例の女の子を連れてきたよ」

さ、ユキちゃん。とずいっと押し出され、ユキは困惑してコムイの顔を見上げた。

「コムイさん、例のって・・・?」

「ヘブラスカはね、君のイノセンスがとても気になっているらしいんだ。見せてあげて」

フェイから資料を受け取りながらコムイが返す。
ユキは手に持っていた楼焔を握り締め、へブラスカの前に差し出した。

「お願いします」

「・・・私を見て驚かないのだな」

ユキから楼焔を受け取ったヘブラスカが不思議そうに尋ねてきた。ユキは頬をぽりぽりと掻いて苦笑する。

「コムイさんから話を聞いてたので」

「そうか・・・」

もちろん嘘だったが、へブラスカは特に追及してこなかった。
ここに着く前にコムイに言われたこと。それは、フェイ補佐官の前では絶対に怪しまれないようにすること。
フェイは直接中央と繋がっているので、確実に話がややこしくなってしまうからだとコムイは言った。

「それじゃフェイ補佐官、これ僕の部屋にお願いね」

「はい」

ファイルごと持っていた資料を返し、フェイは一礼をしてヘブラスカの間から出て行った。

「さてへブくん。初めてくれるかな」

「ああ・・・」

丸い泡のような物体に入った楼焔をユキの頭上にかざし、へブラスカはイノセンスの解析を始めた。

「・・・!」

「どうしたの?」

「いや、あまりにもシンクロ室が高いから驚いただけだ・・・89・・・92・・・97」

「装備型にしては確かに高いね」

顎に手を当ててコムイが「ふうむ」とうなった。
装備型は適合者と身体的な繋がりがないぶん制御が難しいとバクが言っているところを読んだが、確かに高いなとユキも思った。

「シンクロ率が高いと何かリスクがあるんですか?」

「うーん、ないとは断言できないんだけどね〜。ただ、装備型の元帥たちも皆シンクロ率を100%を超えているから、そんなに危惧するほどのことでもないと思うんだけど・・・どうかな?へブラスカ」

「コムイの言うとおりだが・・・私はティムのメモリーを見たときから、少しおかしいとは思っていた・・・」

「おかしい?」

ユキが首をかしげると、へブラスカは顔をこちらに向けてゆっくりと頷いた。

「なぜ人間の体内からイノセンスの原石がそのままの形で取り出されたのか・・・。そして、なぜ体内にありながらも今まで一度も発動をしなかったのか」

「・・・おかしいことなんですか?」

「私も長い間ここにいるが、体内からイノセンスの原石を取り出され、尚且つそのイノセンスを加工して装備型にしたという事例はない・・・。だいたいの場合はイノセンスは自ら目覚め、寄生型として発動するものなのだが・・・」

「・・・え」

「それに、レベル4にイノセンスを取り出されたあの時、お前は確かに一度死んだ。・・・心臓を貫かれたせいだと言ってしまえばそれまでだが、私にはイノセンスを取り出されたことによって死んでしまったように見えた・・・」

ユキは俯いて、昨日みたティムのメモリーを思い出す。

「・・・光があたしの中に入ってきた」

「そして、お前の傷は癒えて生き返った・・・」

「・・・じゃあ、あたしって装備型じゃないってことですか?」

「分類的には装備型になる・・・。だが、お前と楼焔のシンクロ率は新入団員にしてはいささか高い。・・・力の使い方を間違えれば、自分の体に大きな負担がかかるだろう・・・リナリーのように・・・」

そう言って、ヘブラスカは楼焔をユキに返した。

「それに、メモリーの中で見た強い気配を今はまったく感じられない。・・・きっとお前の体内に戻った光の中に宿っているのだろうと私は思っている・・・」

ユキは自分の手の中に戻った楼焔に視線を落とした。
黒く輝くイノセンス。自分の体内から取り出されたイノセンス。
もしかしたら、あたしもララのようにイノセンスを核にして生きていたのかもしれないと、そのときなんとなく思った。

「興味深いね。イノセンスに命を助けられるなんて、これで3人目だ」

「そのことなんだが・・・・コムイ」

ヘブラスカは途中で言葉をにごらせ、ちらりとユキを見た。

「話がある・・・。・・・残ってくれないか?」

「・・・解った」

神妙な顔で頷くコムイだったが、ユキの方に振り向いた時にはいつもの笑顔になっていた。

「それじゃあユキちゃん!これでホントに終わりだよ。僕はまだここに残るからリナリーと教団の中を回ってみておいで」

「あ、はい!」

慌てて頷き、ユキは踵を返してぱたぱたと走り出す。

ユキがいては話せない内容らしい。へブラスカから預言を貰っていなかったが、ユキは楼焔を胸に抱いて急いでヘブラスカの間をあとにした。
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