千年の序章を終わらせる者
□7 初めまして
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ユキが新しい黒の教団本部に対して抱いた印象は、とにかくシンプルかつ在り来たりなものだった。
「・・・広」
「あとは図書室と、資料室と、修練場と、食堂と、団員たちの部屋がある棟ね」
「多っ!」
持っているファイルに目を落としてリナリーが頷いた。
あんなに見学を楽しみにしていたユキだが、なんだかもう疲れ果ててげんなりとしてしまう。
今さっきまで科学班室にいたのだが、そこだけでも本やら資料やら謎めいた実験装置が多々あり、見ているだけで目が回ってリナリーの説明なんかほとんど聞けていなかった。
「ここから一番近いのは修練場だがら、さきにそっちに行こっか」
「おお、修練場!行く行く」
しかしリナリーの言葉にユキはぱっと顔を輝かせて何度もこくこくと頷いた。
科学班室では顔馴染みとなったリーバーやジョニー、ロブや科学班の面々とはだいぶ親しくなれたが、未だにエクソシストにはリナリーとアレン以外には会っていない。
修練場に行けば、任務に出ていないエクソシストが一人くらいはいるはず。
ユキは疲れなど吹き飛ばして元気に歩き始めた。
「ふふ、ユキは体鍛えるのが好きなの?」
「まさか!痛いのは嫌いだよ。スポーツも得意じゃないし・・・」
「そうなの?」
「うん。どっちかっていうと読書してるほうが好き。走ってもすぐに息切れてへばるの早いし、足は遅いし、体力ないし・・・」
「へえ、以外。スポーツ得意そうに見えるのに」
「そうかなぁ?」
「人は見かけによらないね。・・・それじゃ、これから鍛えていかないとね!」
「うっ・・・」
リナリーにウィンクされ、ユキは思わず呻いてしまう。
エクソシストといえども体も鍛え、体術もある程度は身に付けておかないと実戦では戦えないらしい。
ミランダのような補助系のエクソシストならシンクロ率を上げるだけでいいのに・・・と、たぶん戦闘タイプであろう自分のイノセンスをちょとだけ恨んでしまった。
「さ、着いたよ。ここが修練場。いくつかのフロアに分かれているうちの一つだよ」
「うわあ・・・すごい広い」
ユキは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
廊下の視界から一転、開けた場所にたくさんの柱が均等に並び、吹き抜けの敷地にはたくさんの人が素手やら槍やらで互いに組み手をしている姿が見受けられる。
マンガの中ではそこまで詳しく描かれていなかったので、ユキはあまりの広さに空いた口がふさがらない。
「今ここにいるのはほとんどがファインダーだよ」
「えっ!こんなにたくさんいるの?」
「まだまだたっくさん。教団の中で一番多い部隊じゃないかなぁ」
「へぇ〜」
全体を見回すと、やはり男性しかいなかった。
「女性のファインダーはいないんだね」
「うん。やっぱりファインダーって体育系っていうか、一応兵士の分類に入るから女性はあまり・・・ね」
「あ、そっか」
ユキは思い出して頷き、修練場を一通り見回して、リナリーを見て笑った。
「エクソシストの女の子ってのもすっごく珍しいんだよね。リナリーもまたしかりってね」
「何言ってるの、ユキもその一人だよ」
「えへへ」
思わずエクソシストの一員になったことに対して照れ笑いを浮かべた。
大きな音と男の人の悲鳴が聞えたのは、そのときだった。
どさあっ
「うぎゃっ!」
「?」
「あ」
ユキが音に驚いて振り向くのと、リナリーが何かを見つけて声をあげたのは同時だった。
奥を見ると、長い髪を高い位置で一つに縛った少年が同じく髪を縛ったそばかす顔の少年を床にひっ倒しているところだった。
あれは・・・
「もしかして神田とチャオジー?」
「ユキ、もうあの2人と面識あるの?」
「はっ!」
リナリーにそう聞かれ、ユキは慌てて首を振った。
「や、なんか婦長と話をしていたときに出てきた人たちで。聞いた特徴と似てるからそうかな〜と」
我ながら苦しい言い逃れだったが、リナリーは特に不審がることなく「そうなんだ」と頷く。・・・ユキはリナリーに気づかれないようにほっとため息をついた。
「あの2人はエクソシストなの。紹介するわね!」
「あ、うん」
リナリーは声を張り上げて2人の名前を呼び、大きく手を振ってみせる。それに気が付いたチャオジーが起き上がり、手を振り返す。
「行きましょっ」
リナリーに手をつかまれ、ユキは小走りでそちらに向かった。