千年の序章を終わらせる者

□8 初任務@
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任務はまだ始まってもいないのだが、早くもユキの意識は遠くなりかけていた。

「こんなに吹雪いてるなんて聞いてない!」

目の前は真っ白。聞えてくるアレンの声も、物凄い風音に阻まれてほとんど聞き取れない。

「ユキ!しっかりついてきてください!」

またしても遠くなりかけたユキの意識をリンクが名前を呼んで無理やり引き戻し、腕を掴まれてぐいっと引っ張られる。

リンクと言えば、本の中でも相手の名前はフルネームで呼ぶほど真面目な性格をしている。ユキは自分が常にフルネームで呼ばれる事が嫌で堪らなかったので、教団を出る時に彼に必死にお願いをして名前で呼んでもらえるようになった。
……もちろんなかり渋られたが、気合と根性で押し切った。以外となんとかなるもんである。

「ちっ!前が見えねえ!」

ユキがリンクにしがみ付いている少し前を、険しい顔に青筋を浮かべた神田が舌打ちをしながらザクザクと雪をかき分けて歩いている。

今回の任務対象である3か所に派遣されたエクソシストは、人材の能力のバランスを以ってコムイにより均等に振り分けられた。
最近はアレンと神田は何かと任務で組まされる事が多いらしく、アレンは「また!?」と悲壮な顔で叫び、神田に至っては「コムイてめ、わざとやってんだろ!!?」とコムイの襟もとを掴みあげて怒鳴る始末。さすがのユキも思わず止めに入ってしまった。

(でもそれって、この2人が相性いいってことなんだよね……きっと)

もちろん性格じゃなくて、戦いの中で相性が良いという事だと思っている。そうでなければ組ませるはずがない。
漫画で読んだティモシーを助ける場面だって、2人でレベル4を倒してしまったのだ。コンビとしては最高なんだろう。性格が合う合わないは別として。



ごうっ!



そんなことを考えていると突然の物凄い突風に煽られ、コートの裾がめくれ上がって短パンから除く素足が出てしまい、ユキはあまりの寒さに「ぎゃーっ!」という色気も素っ気もない悲鳴を上げてリンクの腕にしがみついた。

「これはかなり酷い吹雪だな・・・・・・ウォーカー!そっちじゃない!」

「アレン・・・」

「ちっ……モヤシの奴なんかほっとけ」

ユキも人のことを言えた義理じゃないが、何だかんだでやっぱり方向音痴なアレンに哀れみの声が出てしまった。

ここは南極大陸のそれほど遠くない位置に面している、とても標高の高い山(ユキはうつらうつらしていたので詳しい名前を聞きそびれた)。
山が吹雪くこと自体は珍しくないそうだが、つい最近から急激に猛烈な吹雪が発生し、さらに山頂付近では激しい雷まで轟くというのだ。地元の人間でも山腹の途中からは一切登ることができなくなってしまったそうで。

「地元の人でも経験したことがないほどの吹雪と雷だそうだ。調査に向かったファインダーがアクマを何十体も見かけていることから、この件はイノセンスが関係してると僕は思う」

「イノセンスと吹雪と雷が関係してるってことですか?」

アレンの問いに、コムイは「うん」とはっきり頷いた。

「イノセンスの在るところには、なにかしら奇怪現象が起きる。アクマがいるということは、千年伯爵もそこにめぼしをつけたのかも知れない。――どうか、気を付けて」

「・・・・・・」

ユキはコムイとアレンのやりとりを思い出し、小さくため息をついた。
先に来ているはずのファインダーとも連絡が取れず、とりあえず山腹にあるという小さな集落の村を目指して歩いている。

「なんで無線機が使えねえんだよ!」

「私が知るわけないでしょう」

そのせいで神田の機嫌も相当悪かった。
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