◆dream

□序章
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『Wat als?!(どうしよう)』

泣き出したい衝動を、
胸に手を当て必死に抑え、
ジュリアは、今太平洋に浮かぶ小さな孤島で
嘆いている。



― 遡る事約2カ月前 inオランダ ―

▼1862年12月25日
ジュリアの15回目の誕生日。

ジュリアが10歳の時父が医術を教授する為、
太平洋の孤島、日本に渡航してから約5年。

ジュリアの15歳の誕生祭に合わせて、
帰国する約束だった。

しかし厳格でいて誠実、
誰よりも家族を愛している父は、約束の日に、
母国オランダに帰って来なかった。

何の便りもないまま、
1863年、父のいない新年を迎える事になった。

その2週間後。

約束を反故された悲憤と、
それ以上に安否を案ずる不安な想いを抱え、
家族の反対を押し切り、父を迎えに行く為
ジュリアは、1カ月間の船旅となる
日本への航行を決意した。

上流貴族に相応しい荘厳豪華な船舶での船旅は実に優雅で、好奇心の強いジュリアは短い時間ながらも各々の停泊国の文化に積極的に触れ、父の赴任している日本に一際想いを馳せ、2月の中旬、ここ長崎出島に到着した。

案内されるままオランダ人駐留会館に通され、
オランダ海軍二等軍医の父の上司であるウィレム・カッテンディーケに謁見した。

彼は私を見ては大変驚き慌てた後、驚愕の事実を告げた。

父は私の誕生日の次の日に出航していた。
仕事の都合で勤務が延長し、その旨を記した便りも出しており、更に一刻も早く帰国するため上流貴族専用のこの船舶を待たずに、
貿易船に乗り既に出港したとの事であった。

ジュリアは完全に入れ違ってしまったという大誤算に衝撃を受け、今に至っている。


コンコン、


悲愴感溢れるこの部屋に凛と響くノックの音。


ジュリアの生涯を大きく転換させる運命の出逢いは、予期せぬままに迫っていた・・・。





※【禍福は糾(あざな)える縄の如し】
⇒この世の幸不幸は、より合わせた縄のように、常に入れかわりながら変転する。

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