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□鼻緒が切れた
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――ある日のことだった
私は町へ出かけていた
1人で、え?ぼっち?煩いなぁ...
下ろしたての山吹色の小袖に、
珍しく高く上げた一つ縛り
小袖に合った髪紐
最高の休日
な、ハズだった
ブチッ――
「うきゃっ!!!」
町の中でずっこけた
それは見事に、顔面から
忍たるもの自分の身を守らなくちゃなのに
受身も上手く取れずに、バタン
人ごみから外れたところだったのが
不幸中の幸い、というものなのだろうか
「あーあ...鼻緒切れちゃったよ...」
私は何処の不運委員会だよぅ...
少し項垂れた後、小袖に手を伸ばした
うん、仕方がないよね
下ろしたてで破くのは抵抗がいるけど
なんで手ぬぐいとか持ってないのかな
あ、そうだ
今日は本当に簪とか買いに来ただけじゃん
持たないよ、絶対持たないよ
「はぁ...さようなら、小袖」
破こうとした瞬間だった
「大丈夫ですか?」
優しそうな声色に手がピタリ、と止まった
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