□鼻緒が切れた
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上からかけられる声に吃驚して見上げると


何処かで見たような顔があった




「え...あ...」



「あ、鼻緒が切れてしまったんですね」





ちょっと待って下さい、と彼は言い、
自らの懐を探り出した



数十秒後、出てきたのは藍色の手ぬぐい




それをビリッ、と裂き出した



「え、ちょ、ちょっと...」



「鼻緒が切れてちゃ歩けないでしょう?


それに、裸足って訳にもいかないですよね」



「...う..は、はぃ.....」



私は彼に草履を託した



「良ければ私の肩に捕まっていて下さい」



その言葉に甘え、私は彼の肩に手を置くことにした


うっぴゃあ、恥ずかしい




彼は器用に、とても器用に草履を直してくれていた

それはまるで職人のような手つきで




「はい、これで大丈夫ですか?」



直してもらった草履を履くと

切れる前と同じような感覚だった



「はい、大丈夫です

本当に有難うございます」



深々と頭を下げると彼は慌てて言った



「い、いやっ!大したことないので...」




おぉ、なんて謙虚な青年だ


知り合いだったらお団子奢りたいよ





「あ、じゃあそろそろ行かなくちゃなので!」



そう行って彼は人ごみへ消えていった







「か、かっこいい......!!!」







私は彼の背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた







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