羊の寝室
□1話
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―頭が痛くなる…。
『お姉ちゃん、いい?まずは私が先を歩くから。曲がり角とかには気をつけて付いてきてね?』
「もう…大丈夫だって。葵は心配しすぎだよ」
姉が苦笑する。が、こればかりは譲れない。
『いや、そんなことないよ。ただでさえお姉ちゃんは可愛いんだし…何かあったらどうするの?』
「何かって…兄弟だよ?何もあるわけないじゃない。それに、可愛くなんてないし」
『もう、お姉ちゃんはわかってない。
飢えた獣達にそんな常識は通用しないんだよ!
大体、父さんも美和さんも何考えてるんだか…13人だか12人だか知らないけど、そんな男だらけのところにお姉ちゃんを放り込むなんて…!!』
「そうだ!まだ私達がいるからいいが…。ちぃはもう少し危機感をだな…」
ジュリは姉に説教を始める。
だけどこれは正論であり、私が庇うべきではないと思い、反論せずにおとなしく話を聴く。
「わかったよ。ジュリはいつもそうなんだから…。それに、そういうことなら葵もおなじじゃない?」
急に話が切り替わり、なぜか私の話になる。
『え、何で私?』
「だって葵、よく男の子から告白されてるじゃない。もてるんだから葵の方が危ないんじゃないの?」
『いや、そんなに告白されてないよ?』
「本当に?」
姉が怪訝そうに私を見る。
『本当だよ。
それに、されたとしても2、3回ぐらいだし』
「それでもされてることにかわりはないじゃない」
『いやそんな…』
「おい、2人とも話を変えていくな!
はぁ…。確かに葵が心配じゃないと言えば嘘になる。が、葵はしっかりしていて危機感がある。その上、空手の黒帯持ちなんだ。
少なくともちぃよりは安心できる。」
そう、私は少し前まで空手を習っていた。
姉を守れるようにと始めたのだが…気がつけば私の腰には黒帯が巻かれていて。
中学卒業とともに空手もやめたが、姉を守るため練習は欠かさず行っている。
『ま、そういうこと。お姉ちゃんにも教えてあげよっか?
護身術なんだし、覚えておいても損は無いんじゃないかな。私が教えられるかはわからないけどね?』
「や、やめとくよ。よくわからないし…」
『そっか。まあ、お姉ちゃんは私とジュリが守るから心配ないよ!』
私としても姉が自分にいいよってくる男共を潰しているなんて光景はみたくない。
「あ、多分ここら辺じゃないかな?」
『ん?…あ、本当だ。この道をまっすぐ、だね』
「そのようだな」
私達3人(2人と1匹?)は新しい家…サンライズ・レジデンスに向かい歩いていく。
姉は楽しみにしているようだが、正直私はあまり楽しみではない。
男だらけの所に姉が住むなど信じたくないし、私の苦労が増えていくのだから。
姉はそんな私に気付かずに、今にも歌いだしそうな足取りで先へ進んでいく。
ふと、後ろを見ると。
自転車がこちらの方目掛けて猛スピードで走ってくる。
『お姉ちゃん、危ない!』
「え?」
「そこのおねーちゃ―――ん!
どいて――――っ!」
「え!?」