読み物
□良い関係。
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お昼過ぎ。食堂にて。
紅葉さんに仕事を押し付けたとはいえ自分の仕事も手一杯で昼食が遅くなってしまった。
一人ずず、と味噌汁をすすっていると、後ろから能天気な大王の声が。
「あれ、鬼灯くんどうしたの元気ないね?」
「は?私はいつも通りですが……」
「そう?いつもはテレビ観てる時間帯なのに、今日は観てないじゃん。」
言われて気付いた。
どうやら私は何かを考え込んでいた様子。
自分らしくない行動に眉間に皺を寄せる。
「何か悩み事があるなら言ってよ。仮にも上司じゃん!」
「大王に言って解決する程度の悩みなら苦労しませんよ。」
「えっ酷い!」
ぷんすか怒る大王に、それでも天下の閻魔大王かとツッコミを入れたくなる。
こんな大王でも話さないよりはマシかもしれない。
一呼吸してから、切り出してみる。
「大王。紅葉さんをどう思いますか?」
「へ?紅葉ちゃん?可愛いと思うよー、たまに厳しいけど孫に欲しい。急に地獄に来た割にはちゃんと働いてくれてるし、君もなんだかちょっと穏やかになったし、良いことづくめだよねー。」
「……穏やか?私がですか?」
なんて意外なことだろうか。
表情にちゃんと出たかは分からないが驚いてしまって箸が止まった。
大王は分かってなかったのかと言わんばかりの様子で続ける。
「自覚なかった?だってキミ、紅葉ちゃんは「様」付けで呼ばなくてもタメ口でも怒らないし、なんだかんだで仕事見に行ってあげてるじゃない。」
「はて。最初からあのような口の利き方だったからでしょうか。あまり違和感はありませんでしたね。」
「そうだよ。それにさ、紅葉ちゃんが前教えてくれたんだけど、結構頻繁にお部屋に遊びに行ってるみたいじゃない。てっきり付き合ってんのかと思ったよ。これ、結構獄卒たちの間で話題だよ?」
「本当ですか、気をつけましょう。といっても今更口の利き方なんて指導しても手遅れでしょうね。」
淡々とした返しを心がけたので、内心の心の動揺は隠せただろう。
大王にここまで言われても、怒る気力すらないのは自分のニブさに気付けなかったことの呆れ。
さっさとご飯を食べてしまえば、次の仕事へとその場をあとにした。
食堂を出るときに大王にからかわれたので、一発蹴り上げておいた。これでしばらくは大人しくしているだろう。
正直自分が紅葉さんを気に入っているのは分かる。
彼女は身体能力が高い分、それなりにぶつかっていっても大丈夫だから手加減をせずに済むので楽だし、見た目もどちらかといえば綺麗系だと思う。口が悪いのは玉に瑕だが。
掃除を頼んでも洗濯を頼んでも、文句は言いつつちゃんとやってくれる。仕事も同様。
彼女がココに来てすぐ、獄卒たちの中での彼女の人気は半端じゃなかった。
美人でドSな第二補佐官ともてはやされていた。
気に入っているといっても兄妹のような関係で自分としては過ごしやすい。
彼女が良ければ、このままの関係で良いのではないかと自分を納得させて、仕事に取り掛かった。