短い読み物

□リクエスト
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いらっしゃいませ。
ここは閻魔殿に一番近い喫茶店です。甘味処と言った方が正確でしょうか。
あ、私は紅葉と申します。ここで働いている子鬼にございます。

子鬼ですから見た目は大変幼いですが、これでも成人しているんですよ。

あら、お客様がいらっしゃったみたい。


『いらっしゃいま……あ、鬼灯様。』

「こんにちは紅葉さん。」


ほ、鬼灯様は、皆さんご存知のとおり閻魔大王の補佐官でございます。
大変優秀な御方で、部下からも慕われていらっしゃいますし、その……大変おモテになられます。

お分かりでしょうから、言っておきます。
はい、私紅葉は鬼灯様に恋をしております。
しかし全くそれを達成するつもりはないのです。
立場が違いすぎますし、なにより鬼灯様とはこうやって会えるだけで十分ですから。


『今日はお休みですか?』
「いえ、今は出張の帰りで時間があったので寄りました。」
『そうなんですか……あ、コーヒーで宜しいですか?』
「はい。あと、今日はこの黒蜜のパフェもお願いします。」
『かしこまりました。』


そう。
こうやっていつも普通の会話をして少しだけ鬼灯様をおもてなしして、見送るのが私のささやかな恋路。
これ以上は望んではいけないと分かっていても、どこか期待をしてしまう自分がいるので、これ以上を踏み出さないように毎日理性と戦ってます。
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