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□やみの中
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 およそ、人の欲望というものにはきりがない。

金持ちになりたいだの、好きな相手に思いを告げたいだの、一緒にいたいだの。
楽をして暮らしたい。欲しい物を買いたい。有名人に会ってみたい。誰かを守りたい。何かを壊したい。

 もっと、もっと、もっと……

 あげつらってゆけば、いくらでも欲は溢れる。所詮、人なのだから致し方ない部分もあるのだろうが、それにしても、と思う。何かを得れば満たされるのか?そういうものでもない。欲しいものを一つ手に入れればもう一つ欲しくなる。

 それが、欲望というものなのだろう。

 際限なく、むさぼる様に。砂漠で見つけたオアシスを独占するかのごとく。欲しいものは手に入れ、喰いつくし。骨までしゃぶって。己の身の内にしてしまえばいい。
 何かを欲するとはそういうことだ。
 跡形もなく、自分のものにしてしまえばいい。

 それがどんなに醜かろうが。どんなに非道であろうが。欲しいものを手に入れなければ。
この上、何を失くすかわかったものではない。
これ以上、そんなのは金輪際、ごめんこうむる。

 だからそう。……何がなんでも手に入れてみせる。

 ヤツの隣で屈託なく笑う、黒髪の少年。
欲しいと、思ったのは何故だったか。もう思い出せない。明確な出会いがあったわけでも、ましてや言葉を交わしたわけでもなく。ただヤツの隣にいる、その清廉な存在に射抜かれたことだけは確かな気がする。自分にはなく、ヤツにあるもの。それが許せなかったのかどうかさえ、わからない。
「新八」
その名を口にするだけで、己の中の欲がたぎるのがわかる。わかりやすすぎるほどの劣情。

 最初は、その身を手に入れるだけで良い。それ以外は何も望まない。そばにいさせて。その眼に自分だけを映させる。その口で、己の名だけを呼ばせる。その心に、己だけを刻ませる。
全てを排除する。
堕として、穢して、壊して……全てをなくしてしまうかもしれない。心も、自我も、矜持も。何もないただのいれもの。
がらんどうなら、欲する必要などないかもしれない。
そういう輩もいるだろう。
けれど、そうなれば己だけを容れられる。一色に染められる。

 欲するとは。そういうことだ。己の手の中でだけ咲く花。手折るも、愛でるも己次第。

 その花を、手に入れてやろう。


 高杉は心底で暗い笑みを刻み、意思を表明するかのように呟いた。

 「さぁて、そろそろ狩るか---」


end

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