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□酔 狂*
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大人はズルい。

 付き合いだと言っては飲み、仕事だと言っては飲み。疲れを洗い流すと言っては飲み。趣味だと言って、酒を楽しむ。

 今日も今日とて、お金もないのに飲み歩いて、正しく酔っ払いの体で帰ってきた銀さんを見るにつけ、ため息以外の何も出ない。
布団まで連れて行って、着替えさせて寝かしつける。
……お母さんでも、奥さんでもないのに、なんで僕が面倒みなきゃならないんだろう……


ダメだ、そんなこと考えるといろいろもやもやしてくる。

「銀さん、僕、帰りますね」
「……泊まってけば?」
「やです。お酒臭いの嫌いですから」
「うーん……」
何だかむにゃむにゃ言ってるけど、まぁいいか。
どうせ、酔ってるしそのうち寝るだろうから、このまま寝かしておこう。
赤い顔して、何を肴に飲んだんだか……。そうっと、側を離れぎわ、銀さんの顔を見たら、幸せそうに見えたから何だか、余計にもやもやする。

そういえば、あの人もお酒よく飲んでるけど。酔ってるとこ見たことない。
万事屋を後にして、頭をよぎったのは憎らしいくらいに、いつも僕を子供扱いする男。
あの人は、銀さんみたいにへらへらしないし、酔いつぶれて眠ることもない。ただ淡々と飲み続ける。
僕は、お酒を飲める訳じゃないけどなんだか、自分との差を見せつけられているみたいでちょっと悔しい。僕はどうやったってあの人から見れば、子供なんだろう。
…やっぱり、なんか悔しい……


ずいぶん遅くなってしまった。本当は万事屋に泊まってもよかったけど、なんだか予感がしたのだ。甘くて苦い感じの。
知らず、足取りが軽くなる。
「何、浮かれてんだァ」
暗闇に、耳慣れた聞きなじみのない声。
振り向かなくても、誰かなんて聞くだけ愚問だ。
本当は会いたいなんて思ってはいけない。だからこそ、たまの邂逅がたまらない。何かがあふれそうになるのを、必死でこらえるけれど今日は何だか。
…こういうとき、大人ってきっとお酒の力を借りるんだろう。……だから、大人ってずるいんだよ。
飲めない僕はどうすりゃいいんだ。
「人の顔、まじまじ見やがって何か言いてぇことでもあんのか?」
人目を避けるように路地の板塀にもたれかかって、派手な着流しの裾を払う。
「……泊まりに来ませんか」
「あぁ?お前ん家にか」
「ダメですか」
「……誘ってんのか」
「!」
たち悪い。違うって言えない僕のことわかってて、来てって言わせたいんだから。
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