【book1】

□おとなたちの出発1
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ついにこの日が来てしまった・・・。








今日は真夏日。


射すように真上から太陽がふりそそぎ、車に乗るまでの間に汗がしたたり落ちる。
首にまとわりつくりうの、柔らかくて長い髪を、母が指ではがしていく。

りうは一週間分の荷物をリュックに持たされているが、
両親は小さなバッグにパスポートだけをいれており、
あとの荷物は全部いわゆる「ゴロゴロ」にいれており、父が車のトランクに詰めている。




「ほら、車に乗りなさい、りう」






小学校に入っての初めての夏休み。



時間を気にせず一日中遊んでいられる特別なおやすみ。





近くの川でみんなと水浴びして石ころを集めたり。

少し夜更かししてジブリ映画をお父さんと観たり。

おかあさんと一緒にごはんをつくったりして。


朝からのラジオ体操もまだりうには新鮮で、スタンプが押されるたびに何か達成感のようなものを感じていた。






それが今日から一週間、りうは従兄の家に預けられるのだ。





みんなと遊べなくなる・・・。

行きたくない理由は、それだけではないが。







「ねえ、なんでりうはついていっちゃいけないの?一緒に行きたい・・・」

「う〜ん、それがね、今回は海外の治安の不安定なところにも行かなくちゃいけないらしいの。
だからりうは平泉のお兄ちゃん達と日本でお留守番。大丈夫よね??」


「・・・・。」






平泉家は5人兄弟で、それも男ばかり。

りうは少し、この兄弟が苦手だった。




3つ下の末っ子はまだしも、同い年の四男は髪をひっぱったりとすぐ嫌なことをするし、
中学一年生の三男は外に遊びに行ってばかりで、めったに家にいない。

二男はスタイルもよく顔もかっこよかったが、何だかこわくて、りうは近づけずにいた。

そんな中、一番りうの面倒を見てくれていたのが長男だったが、
海外のハイスクールに行っているとかで、一年以上前から不在にしていた。




「海外って・・・遠いの?」

「そうねえ、海の向こうよ。飛行機に乗ってずうっと行くの。
おみやげ、いっぱい買ってくるからね」


「観光の時間とってもらえてよかったな。りう、なにがいい?おみやげ」




両親は単なる旅行ではないらしかった。


母の兄・平泉総一郎は現職の国会議員だ。
母と、平泉の妻であるりうの叔母はよく、その仕事を手伝っている。

今回は少し時間がとれるので、父もいっしょに3人で旅行がてら出かけるというわけだった。







車の中から見る景色が、だんだんと変わってゆく。


いとこの家は駅で5つほどの距離にある。



父は、高級住宅街のほうへハンドルを切った。



「義兄さんもあとから来れるんだろ?」

「うん、日本での仕事終えたら合流するって。」



「・・しかし、こどもたちだけで大丈夫か?一週間も」

「通いでお手伝いさんたちもいるし、お兄ちゃん達も夏休みで家にいるから大丈夫でしょ。
りう、いっぱい遊んでもらいなさいね」




「う〜〜、おかあさぁん・・・」




「ま、情けない声だしちゃってまったく!内弁慶なんだから」















ほどなくして平泉家に到着した。





















・・・to be continue・・・

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