【book1】

□こどもたちの、今日2
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「・・・よし。このへんにしとくか・・」








昴は大人たちが出発した後、自分の部屋にこもって勉強をしていた。



別に学校のテストに備えているわけではない。
そんなもののためにわざわざ勉強する必要などない。


ただ、夏休み明けに中学生統一模試なるものがあり、
それは今年受験の3年生とも競うものであるが、
昴は中学2年生ながら、1位を狙っているのだ。




昴は学校始まって以来の天才と謳われており、
こういった全国レベルの模試にあっては、常にトップの成績を修めつづけていた。



昴とそらの通う私立中学は、父と兄が卒業した名門私立であり、
海司もそこの小等部に通っている。





名門中学を首席で卒業し、海外のハイスクールへいく。

代々政治家を輩出してきた平泉家の進学コースだ。






兄の大地もそうして今アメリカにいる。

昴もその道をたどることになるだろう。






一方、そらはもう昔から友達と遊ぶことばっかりで、
中等部にあがるころにはもうすっかり落ちこぼれていた。


おそらくこのままではただ高等部に進むのですら難しいだろう。







「そういや隣の部屋すっかり静かになったな・・・」





少し前まで複数人の声とそらの馬鹿笑いがきこえていたが、
さっき人が移動した気配があったので、
きっと友人はもう帰ったのであろう。


そらが部屋に戻った気配もないから、
おそらくリビングでガキどもの相手をしているに違いない。




そとはまだ明るさを残しているが、ふと時計を見ると時刻は7時半。




「・・もう飯時だったか」




だいたい海司たちの面倒を見ていたのはもっぱら大地であったから、
長男不在の今、昴か、もしくはそらがこどもたちを見るよりほかない。







ごはんを食べさせてお風呂に入らせる。









ふと、昴は考えた。



・・果たしてりうはお風呂をどうするだろうか。








瑞貴が小さいのもあって、海司も兄貴やそらと一緒に入ることが多いが、
りうはうちに来た時いつもどうしていただろう。


兄貴が入れていたのか、それとももうひとりで入れるのだろうか。




平泉家には女の子がいないし、
大地がいるあいだはあまりりうと関わってこなかった昴には、見当がつかない。





「・・・ま、自分で判断するだろ」





考えるのも面倒になり、とにかくさっさと済ませてしまうことにする。






下の階に降りてみるが、思ったより静かだ。


「ん?」


リビングに入ると、夕飯のにおいがしてくる。
ごはんはできあがっているようだが、食卓には並んでいない。





まだ飯食ってなかったか・・・




ドアを開けて畳のほうをみると、手前のほうで瑞貴がすやすやと眠っている。

そしてテレビの前で海司が口を開けてゲームのコントローラーをにぎっており、
その横でりうが、こちらも口を開けて画面にかじりついていた。




「・・おい」

「・・・」


「・・・おい!海司、りう!」

「「・・ハッ!」」



海司とりうが同時にこちらを振り向いた。

ふたりとも眉間にしわが寄り、目をしぱしぱさせている。





「お前ら・・ずっとゲームやってたのか?ごはんは?」


「いや、あの・・レベルあげに時間かかってて・・・」

「は?」



「ボスのところに行ったんだけど、もう全然レベルが違ったの。
この塔にいるモンスターは一撃で倒せるくらいの力がないと倒せないみたいで・・・」

「誰がゲームの進み具合を聞いてんだ。お前らだけか?そらは?」


「そら兄は出てくるって行っちゃった・・・夕飯いらないって」




「はぁ!?アイツ外でたのか!!?」


「あ、あの・・どこ行くか聞く前にもう出て行っちゃって・・・」



昴の声の大きさと剣幕に縮み上がり、海司が正座して向き直る。

その姿に我に返り、少し自分を落ち着かせた。





「・・・ちっ。まあそれはいい。飯食うぞ。
ほら、瑞貴起きろ」


「・・・ん・・」





昴は瑞貴を抱き上げて、イスに座らせた。

瑞貴は自分の子供用のイスがあるが、
りうには大人用は大きいようで、顔とテーブルが近くなってしまっている。

テレビをいったん、ゲーム画面からゴールデンタイムのバラエティ番組に変えた。

クイズにたいして、海司とりうがいろいろと答えてみたりとだいぶ騒がしい。
しかし昴はりうがすっかりうちにいるのに慣れたようだったので、少し肩をおろした。





「お前ら順番に風呂入れ。りう、ひとりではいれるか?」

「・・・」


「だっせー。おまえひとりで入れないのか?瑞貴と同レベルじゃねーか」

「・・だっていつもお父さんと入るもん。海司もうひとりではいってるの?」


「おれはだって・・兄貴たちが瑞貴を風呂に入れる時に一緒に入るから・・」

「ほら!」

「兄弟多いんだからしかたないだろ!別に入れないわけじゃねーよ!」



「もう二人ともうるさい。俺は瑞貴を今から風呂に入れるから。一緒にはいるならすぐ準備しろ」

「はーい・・」



「おれは別にひとりではいるし!」











結局意地を張ってひとりではいると主張した海司を残して、3人で湯船につかる。





はしゃぐ瑞貴とりうを見ていると、昴は母とお風呂に入っていたころを思い出す。


あれは入り方をチェックされていたのだろうか、だいぶ指導がはいった気もするが、
いつもに増してテンションがあがって、無理して長湯した。




小学校に入るころには海司が生まれたので、昴にとってはそれまでの短い記憶だが、
兄の大地も、その下の兄弟たちも似たようなものだろう。












・・・この小さな従妹は一人っ子だ。

この先も父と、母と、お風呂に入るのだろうか。

















「瑞貴!服は着せてやるからちょっとまってろ!」



昴は2人を何とか丸洗いし、お風呂を出た。



自分で着たいのか、瑞貴は服を手に取り、てんやわんやしている。
昴は、耳に水が入ったといって、片足でてんてんとはねているりうにとりあえずタオルをかぶせた。













・・面倒を見ながら風呂に入り、自分は逆に汗をかいた気がする。







ほかほかにできあがったりうの髪を拭きながら、
昴はふっと、息を吐いたのだった。

























・・・to be continue・・・

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