【book1】
□こどもたちの、今日3
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次の日、朝いちばんに起きてきたのは瑞貴だった。
朝、リビングには誰もいないはずであるのに、なぜか今日はひとの気配がある。
お手伝いの人たちは、夜に朝ごはんまで準備して帰っていく。
そして次の朝になるとまた通いでやってくるから、誰もいるはずないのに。
おそるおそるドアを開けると、そこにいたのは髪を黄色にした三男・そらであった。
「そら兄」
「お、みずきおはよ(^_-)-☆」
「・・・髪の毛がきいろだ」
「ふふふ〜いいっしょ?染めちゃった!
まあ夏休みの間だけね。似合う?」
「ふふ。にあう。」
そらが畳でゴロリと横になっているところの前に座り、目当てだったアニメを見始める。
お手伝いさんが準備した朝ごはん用の米が炊けるにおいがしてきた。
このアニメ、先週気になるところでおわったんだっけ・・・・・
------------瑞貴が目をあけると、みんなの話し声が聞こえた。
自分にはタオルケットがかけられている。
アニメを見終えた後、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
「ったく・・・そら兄いつ帰ってきたんだよ?」
「その髪おばさん帰ってきたら怒られない?」
「どこに行ってたかはヒミツ☆てかふたりとも起きてくんの早いね〜!」
「だってもうラジオ体操の時間だもん・・・」
「へ〜りうちゃんの学校ラジオ体操あるの?それって学校までいくの?」
「え?やったことないの?」
ラジオ体操かぁ・・・ぼくもやりたい・・・
ぼーっとそう思いながら、子供用の自分のイスをひっぱり、のそのそ座る。
「おはよ・・・」
「あ、瑞貴起きた」
「・・・おなかすいた」
「じゃあおれ昴兄起こしてくる」
準備してあった朝ごはんをみんなで並べる。
昴を起こしにいった海司が、昴と一緒に戻ってきた。
「昴兄もう着替えてた。でかけるみたい」
「おはよう」
「昴兄おはよう〜」
昴がじろりとそらを見やる。
「う・・・」
「・・・俺今日練習だから。昼飯は自分たちで食えよ」
「え?ちょっと!スルーしないでよー!!オレの髪どーぉ?」
「バカみたいだな」
「どーーーん!超クールな感想」
「うるせえな。今度夜帰ってこなかったらシメる」
「ひっ!!」
みんなで朝ごはんを食べ終わり、昴が出かけていく。
昴は小さい頃から少年サッカーチームに所属しているから、その練習だろう。
外は今日も一段と天気が良く、空気は真っ黄色にキラキラ輝いている。
そのうちにお手伝いさんたちが通ってきて家事をはじめた。
いっせいに瑞貴たちの食べた茶碗を洗い、洗濯機をまわし、掃除機をかけはじめる。
「りうちゃんどうしたの?」
「ん?・・・」
ずっと元気だったりうが急に黙りだす。
生まれた時からこの家にいる瑞貴にはわからないかもしれないが、
りうには知らない人が家で自分たちの世話をするのが、どうしても気になってしまうのだ。
りうの様子に他の3人も黙りだし、
なんとなく会話もなく、畳のテレビでニュースを見る。
「アメリカの高校生が銃を乱射だって・・・」
「アメリカかぁ・・・」
「大兄・・・」
長男・大地のことを思い出される。
瑞貴の顔が重く沈んでいく。
大好きな大兄がここにいないことに、急に寂しさがこみあげてくる。
「なんだよ!みんなしんみりしないの!」
「だって大兄いないとつまんない・・」
「オレがいるじゃん」
「だってー・・そら兄頼りないもん」
「むかー!!オレだってやるときゃやるぜ!ついてこいガキンチョども!」
「どこに??」
おひるごはんを早めに済ませ、そらの主導で庭に子供用プールを出した。
こどもだけでプールに行けない上に、学校のプール開放日もないので、
外で涼を得るにはこれしかない。
幸い平泉家には大きな庭もあるし、今は庭を水浸しにして怒る大人もいなかった。
最新の空気を入れるマシーンで、ビニールでできた子供用プールをカタチにしてゆく。
「・・りうちゃん、これにも空気いれて」
「なあに?これ」
「あ、これワニの形の浮き輪。そーだ!せっかくだからいろいろ膨らましてみよっか」
瑞貴が持ってきた動物シリーズの浮き輪を皮切りに、家にあるすべての浮き輪をもってきた。
が、調子に乗って全部膨らましたところでりうが気付いた。
「あれ、プールがいっぱいになっちゃったよ?」
「ぼくたちが入るすきまがない〜」
「しまった・・・ちょ、いったんワニ以外潰そっか・・・」
「じゃーーーん!!」
「わあ!何それ海司!すごーい」
「ちょっと重いけど、もてるか?」
海司が去年買った水鉄砲のすごいやつをだしてきた。
浮き輪をしぼめるのに熱中して気付いてないそらを、りうと海司2人で後ろから集中砲火、
いや集中放水する。
「いだだだだ!!!!いたーーーい!何すんのもう!」
「あははははは!」
「きゃー!」
「いや、きゃーじゃなくてマジ痛・・がぼっ!!」
「ははははは」
「もー!!このっ」
はじめのうちは笑っていたそらが、反撃に出るため2人のもっている銃を奪おうとする。
「ちょっ・・そら兄あぶない!」
「きゃあ!」
「いてっ!!」
ザパーーーーッ!
3人大暴れするうちにプールの水をひっくり返してしまった。
「あ〜あ・・・」
「しかもなんか破れてない?」
「もう使えないじゃん・・」
びしょぬれの服のまま、壊れたプールを家までひっぱっていく。
「ぎゃー瑞貴!水かけんなって!」
瑞貴だけはまだにこにこしていて、
3人の後ろから水鉄砲を撃ってくる。
今まで使わせてもらえなかった大きい水鉄砲を持てて嬉しいのか、
まだ4つだというのに巧妙にそらの後頭部を狙い撃ちする。
そのうちに水が切れて、からっぽになったエモノを手に家の中に入ろうとすると、
後ろから声をかけられた。
「おい、なにやってんだ?」
「あ、昴兄帰ってきた・・」
「もうそんな時間?」
夢中になっていて気付かなかったが、時刻はもう夕方になっていた。
「今から雨ふるのに水浴びしたのか?」
「え?きょう雨?」
そういわれて空を見上げると、
あんなに広がっていた青空がいつのまにかグレーの重たい雲をひっぱってきていた。
「なんか寒くなってきたかも・・・」
りうが濡れた肩を両手で抱える。
「俺も練習で汗かいたから風呂入る。りう、瑞貴、一緒はいるか?」
「「 はーい 」」
「え?え?なんでなんで?りうちゃんも昴兄とはいんの?」
「うるさい。お前は海司と入ってろ」
「お、おれは別にひとりで入れるし!」
「オレもりうちゃんと一緒はいりたーい☆」
「狭いっつーの!はいってくんなバカ!」
今日はみんな濡れていたのもあって、結局5人でお風呂に入った。
昴の言う通りさすがに狭くて身動きがとれない。
それでも兄弟みんなで入るなんてもうほとんどなかったし、
りうが瑞貴と一番一緒にいてくれるので、瑞貴はとても幸せなきもちだった。
きょうは一日遊び倒したので、
昴を残して他4人は早々に眠りにつく。
外は夕方から大雨となった。
異常気象なのか、当分雨は続くようで、洪水と津波で注意警報がでている。
家政婦たちも仕事を終え、時間が来て、冷房もリビングを冷やすのをやめた。
平泉家の家の電話が鳴ったのは、そんな夜だった。
・・・to be continue・・・