【book1】

□こどもたちの、今日4
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ーーーーー家の電話が鳴っている。






昴は一瞬息を止めて音のなる方を見つめた。


こんな時間にこの電話が鳴るのは・・・父か母に用事がある大人か。

もしくは父か母本人か・・・。


今どちらも不在にしている。
中学生である自分に判断できることはまだ少ない。
もし父に用がある者であれば、秘書の田中さんに電話して・・・



受話器を取るまでの間に選択肢をいくつか考える。


どちらにせよあまりいい予感はしない。



「もしもし」


「・・・昴か?」


「父さん・・」




電話の主は父であった。が、その声のトーンはやはり何か含んでいた。


「な、何かあったの・・・?」


「母さん達が・・・」

「え!?」


「いや、大丈夫だ。

ただT国に入ってから連絡がとれないらしくて・・・
今あそこは政府軍と革命軍が争っていてかなり危険な地域なんだ。

まだ安否確認がとれてない・・
大丈夫、念のため知らせておこうと思っただけだ。
すぐに無事がわかるさ。

また情報が入ったら連絡するから。
とりあえず明日はみんな家にいるようにしておいてくれ」






母達が日本を出てもうすぐ2日たつ。
そんなに遠くまで行っていたのか・・・。

そういえば今回どこへ行く予定なのか、何をしにいくのか、聞いていなかった。

いつもどおり家を出て、すぐに帰ってくるのだと思っていた。
いつもどおり、大量にお土産を抱えて明るい笑顔で帰ってくるのだと・・・























「おはよう昴兄〜」

「ああ、おはよう・・」


今日も一番に瑞貴が起きてきた。


テーブルに突っ伏していた昴に首を傾げながら、
しかしいつもどおりテレビをつけてアニメのチャンネルに変える。


「あ、悪い瑞貴・・・ニュースに変えてくれないか?」

「え?だって・・・」


「隣の部屋にもテレビあるだろ?」

「・・・」


じゃあ自分が行ってよ、と顔で訴えつつ、瑞貴が部屋を出る。


テレビを見ても、とくに外国での事故や事件のニュースはない。
・・・いや、ニュースになるより、父に連絡が行くほうが早いだろう。


しかし・・・




「おはようございます」

「あ、りう・・」

「あれ?瑞貴のが先に起きたのに・・」

「ああ、隣の部屋にいるよ。早起きだな?」

「だってラジオ体操の時間だもん・・」


海司とそらはまだ寝ている。


・・りうに昨日のことを言おうか。
稲嶺のおじさんとおばさんが今行方不明になっていて・・・



「チャンネル変えていい?」


「あ、ああ・・・」



言っていいのかどうかさえ、判断がつかない。

いや、りうに言ったところで・・・



まだ決まったわけじゃない。

とにかく、連絡を待とう。


ひとり心にとどめるには辛かったが、昴はいったん胸にしまった。








「へいへいへいへ〜い!諸君おはよう!」


「う〜!そら兄うるさい!なに??」

「今日おれデート行ってくるね〜☆」


「え?そら兄彼女いるの!?」

「なに!?デート!!?」



そらが着替えて降りてきた。なんだかはしゃいだ格好をしている。

海司とりうがパジャマのままきゃーきゃー騒ぐ。



ち、こんなときに・・・



「そら、今日は外でるな」

「・・・は?」


「一日家にいろっつってんだ。聞こえなかったのか?」

「なんで昴兄にそんなこと言われなきゃいけないんだよ。今日なんかあんの?」



「・・いいから。外出するな。海司、瑞貴おまえ等もだ。」



ガタン!!



「知るかよ。えっらそーに・・・オレ行くからな」

「行くなっつーのが聞こえねーのか!!」


「・・・・・!」




海司とりうが茫然と、目をまんまるにして二人を見つめている。




しまった・・大きな声出しすぎた・・




そらが目を伏せ、震える手でもっていたケータイを握りしめて部屋を出た。





ダンダンダンッ


いらつきを隠さずに二階にのぼっていく音が聞こえる。




海司は息をのんで昴を見た。


「・・・悪い。びっくりさせたな。俺も今日は家にいるから。」

「昴兄・・どうしたの?」


「・・いや」




瑞貴がりうにぎゅっとしがみつく。

りうもびっくりして、しかし瑞貴の頭をなでながら、昴の顔を窺がっている。



「・・朝ごはん食べよう。ごめんな、瑞貴。こっちおいで」

「うん・・」


瑞貴をイスに座らせて、準備してあったごはんをならべる。



結局不安を幼い兄弟たちにぶつけてしまった・・・

いや、そらには正直に伝えるべきだったのかもしれない。

でも海司には、そしてりうには・・・









後悔しながら、それでもまだまだ息苦しくてたまらない。

はやく、はやくだれか「だいじょうぶだ、無事だった」といってくれ・・・!








外はずっと雨が降り続いて、どこまでも重たい雲が街にのしかかっている。























結局、今日連絡は来なかった。
















・・・to be continue・・・

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