【book1】

□こどもたちの今日5
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昨日降った雨が、木々の端々にとどまり、キラキラと反射してみせている。
ひさびさに太陽が顔を出して、高い空が戻ってきた。





しかし今日も平泉家の兄弟は、誰も外に出ないことになっている。







海司はとりあえず今日は、りうと瑞貴と3人でこども部屋にいることにした。

こども部屋は小さめで木製の、てすりつきのベッドと、
引き出しつきの簡単な勉強机がいくつか並べておいてある。
フローリングの窓側には木綿のカーペットのようなものが敷いてあり、
低めの棚に瑞貴の遊び道具や、海司のつくりかけのプラモデルなんかもおいてある。


平泉家の兄弟たちはこども時代をこの部屋で過ごし、次第に自分の部屋を与えられるのだ。


大地と、昴とそらは中学に上がるときにそれぞれ自分の部屋をもらったが、
一人用の部屋は余っているわけではない。


というかもう3人が使っている分で埋まってしまっているので、
海司は、自分が部屋がもらえるのは兄弟の誰かが家を出るときか、
もしくは家の増築があるときだろうとふんでいる。


でも別に瑞貴と一緒でもとくに不満はないし、
むしろこども部屋のほうが広くて自由に使えるので、
ずっとここでもかまわないように思っている。



それというのも、ここには兄たちがおいていった子供時代の遊びものがたくさんあるからだ。

それぞれ興味のあるものが違ったから、
ジグソーパズル、百科事典、飛行機のラジコンや有名なアニメのフィギュアまでいろいろとそろっている。


ここなら喜ぶかもしれない、と思ってりうを連れていけば、
案の定、目をキラキラさせて部屋をみているので、海司はとりあえずほっとしていた。






昨日、そらは結局部屋から出てこなかった。




海司が声をかけると返事はするが、あとは携帯で誰かと話しているくらいで、
ごはんにもおりてこなかった。



昴とそらはよくケンカになる。


性格が合わないのか、年が近いせいなのか、兄弟の中で一番そりがあわないようだ。

だから二人の言い合いはとくに珍しくないのだが、
昴の機嫌の悪さは今日になっても回復していないのだろうか。

昴がリビングで怖い顔をして佇んでいるのでとてもそこにはいられない。
いったい、何が起きたんだろう・・・?



海司はとにかく、機嫌が悪いときの昴には逆らわないことに決めている。



ほんとはせっかく昴もそらも家にいるので、おとといのように5人でお風呂に入ったり、
一緒に遊びたいと思っているけど。








「海司、どうしたの?」




りうが心配そうにこちらを見る。

ひとりっこのりうには、このケンカのおきているピリピリした感じがとても耐えられないのだろう。
海司が二人の兄にアンテナを張り巡らせている様子が気になるらしい。




「いや、なんでもない。あ〜あ、外はいい天気だな」

「そうだね・・・でも部屋の中でも楽しいよ。
クーラーもきいてて涼しいし。いいなあ、こんな部屋に住みたい。」

りうが純粋にそう言って、小さく微笑むので、海司はなんだか照れくさくなった。

「ま、まあな。なんでも好きなの触っていいぞ。
俺が作ってるプラレール見るか?」


なにそれ!といいながら、海司が出してきた電車の細かい作りにりうが感激する。
そのうちに海司もあそびに夢中になっていた。

このまま時間がたてば、いつものように過ごせるはずだ。

そう思っていた。





















「海司、瑞貴、はいるよ」



気が付くと冷房で部屋がきんきんに冷えていた。
瑞貴とりうはふたりでタオルケットにくるまっている。

どうやら途中で昼寝してしまったようだ。



「あれ・・・?」



「ただいま、海司」




海司を起こしたのは、旅行にいっているはずの父・平泉総一郎であった。


「もう帰ってきてたんだ?かあさんは?」

「父さんは旅行行けなかったんだ・・・。
話があるから、瑞貴とりうを起こして下にこれるかい?」




父は、海司の同級生の父親たちと比べると歳をとっているほうだ。

だがテレビなんかで見るほかの国会議員より見た目も若く、
世の奥様方にも「若くて影響力のある議員」とか、「総理になってほしい人NO,1]などと騒がれているくらい、
いつもバリバリと仕事をこなしている。


それが、きょうはなんだか疲れているようだ。








・・・旅行に行けなかったとはどういうことだろう?



りうと瑞貴を起こし、クーラーを消して階段へ向かう。

窓から外を見ると、家族全員で移動するときに使う大きめの車がエンジンを吹かせて待機している。

今からどこかへ行くのだろうか。



とくに見当もつかないままリビングへ行くと、すでに部屋にこもっていたはずのそらがいて、
イスに片足を上げ、顔を下に向けている。

昴はもう機嫌が悪い時の顔ではなく、どこか遠くを見て歯を食いしばっている。


何か変だ、と思ったのは、父だけでなく周りの大人たちと、
そして兄2人までもがが黒い服を着ているからだ。




「なに・・・?」




「3人とも落ち着いてききなさい」

























一緒に降りてきたときにつないだりうの手が、海司の手からはなれる。



雨のせいで湿気ているリビングの床にへたり、と座り込んで、
もしかしたら息もしていなかったかもしれない。


そらが顔を伏せたまま大声で泣き出して、リビングに声がこだました。























母さんと・・・稲嶺のおじさんとおばさんが、死んだ。




















・・・to be continue・・・

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