【book1】

□こころの、お別れ2
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やはりこっちの夏は暑い。
じめじめと湿気を含んでいて、熱気が肌にまとわりつく。

それに空気が重たくて・・・



いや、それは俺の気持ちの問題かもしれない。
こんな形で帰ってくることになるなんて・・・





・・・母さん・・・













大地は行きたくないような、でも走りだしたいような、複雑な気持ちで駅から家へ急ぐ。


日本にいたころは一番近い駅からでも自分の足で歩くことはあまりなかった。

アメリカでの暮らしは気ままで、そしてとても自由だったけど、なぜか自分には合わなかった。
大家族で暮らしてきたせいだろうか、生きていくのに誰かか一緒でなければつまらない。


守るべき誰か、支えるべき誰かと・・・
















母が死んで、もう何日かたっている。

通夜も葬式も済んでしまい、今頃家の整理をしている頃かもしれない。

幼い弟たちはどうしているだろう。泣いているだろうか。
父は家にいるのだろうか。





門には鍵がかかっていなかった。
まだいろんな人の出入りがあるためか、めずらしく開けたままにしてある。

外にいた使用人たちに声をかけながら家の前についたが、なんとなく入るのをためらう。



もうこの家に母はいないなんて。




「おかえり」って言って明るい笑顔で迎えてくれる母は・・・


もういないんだ。














「大兄!」

「大兄ちゃん!!」





「ただいま、久しぶり」

兄弟たちが帰ってきた長兄を見て駆け寄ってくる。
大地は自分の荷物を下において、一番下の弟を久々に抱き上げる。


「わあぁぁぁぁぁん・・・大兄ちゃん・・・」

「大兄・・母さんが・・」

「大兄・・」



「・・うん」




弟たちの泣き顔を見て、大地はほっとした。

もっと早く帰ってきてあげたかった・・






大地は昔から責任感の強かった。

3つになるころに昴が生まれてから、家族が増えるにつれそれは増していった。

父も母も、兄弟たちもみんな大地をよりどころ頼りにしているところがあり、
大地自身も生まれ持った性格なのか、それを重荷に感じたことなど一度もなかった。


すべての人を包み込むような温かさがあり、それでいて芯もしっかりしている。


大地が帰ってきたことで、兄弟たちはようやく拠り所を取り戻した気持ちなのだろう。
誰もが緊張から解放された表情をしていた。





大地が改めてダイニングの脇を見ると、真新しい仏壇が仕立ててあって、
写真たてが2つ、ならべてある。
母さんが笑っている写真と、稲嶺のおじさんとおばさんがふたりで写っている写真だった。


瑞貴をおろして、お線香をあげる。
手をあわせて、かたく目を閉じた。








母さん、帰るのが遅くなってごめん。

この家のことは心配しなくていいから、ゆっくり休んでください・・。







そこで、ふ、と違和感に気づく。






りうはどうしているのだろう。





稲嶺のおじさんのほうには親戚がいないときいたことがある。
兄弟もいないから、だからりうはよくうちに預けられていたはずだった。





「兄貴・・」






大地が目をあけたところで、昴がうしろから声をかけた。







「なあ、昴、りうは・・・」


「・・・家にいる。」




なんだ、うちに来てたのか、と一瞬思ったが、違った。








「家から出てこない。もうまる2日も一人で・・・」




「 !? どういうことだ?」






















・・・to be continue・・・

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