【book1】
□わが家のきまり5
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見上げるほど巨大な建物には、大きなガラス戸があり、その両脇に黒服のおとこたちが人をチェックしては中にいれている。
都内の有名な高級ホテル。
各界の著名人が今日ここに集まっている。
年初め恒例の、年頭視閲式だ。
「ねえ、ぼくもう足つかれた。座りたい・・・。」
「あ、瑞貴大丈夫?大兄ちゃんにだっこしてもらう?」
「兄貴はいまむこうで父さんとあいさつしてるから。しょーがねーな・・・ほら瑞貴こっちこい。りうは大丈夫か?」
スーツ姿の昴が瑞貴を抱き上げる。
今夜は国会議員である平泉のために一家全員でこれに参加していた。
りうはこんなに大勢の大人のひとが参加するパーティに来るのは初めてで、
キラキラした照明、たくさんのテーブルに豪華なごちそう、みんなのつやつやに光る衣装に目を奪われていた。
「昴!みんなちょっとこっちきてくれるか」
平泉によばれ、兄弟たちと一緒に大地と平泉のもとに向かう。
「父さん、瑞貴たちは早めに帰してもいい?もう眠そうだし」
「ああ、お世話になってる人たちに少し挨拶したいんだ。それが終わったらすぐに車を用意させよう」
平泉が、おじさんたちの群の中へ入っていき、それに大地たちが従う。
紹介され、握手をする様子から大地と昴はもうこういった挨拶にも慣れているようだった。
「あれ、平泉さんのところはお嬢さんもいらっしゃったかな?」
「ああ、これは私の妹の娘で、りうと申します。今家族として一緒に暮らしているんですよ」
「そうでしたか。こんばんは」
「・・こ、こんばんは。りうです」
後ろに兄たちがついているとはいえ、単に自己紹介して握手するだけでやたら緊張する。
このおじさんたちはたぶん平泉と同じく国会議員なのだろうか。
スーツには叔父と同じバッチがついている。
「平泉さんのところは立派な跡継ぎが4人もいてうらやましい限りですよ。うちは女の子ばかりで・・・」
「4人?」
ふと、りうは疑問に思ったことを口にしてしまった。
・・・なんだろう?
みんなの空気が、どこか一瞬変わったような・・・
「うちの子は5人兄弟ですよ。りうもうちに来てくれたので、とてもにぎやかになりました。
家族ともどもこれからもお世話になることもあると思いますが・・・」
それから何人かの国会議員やら財界人やらと話をして、やっと兄弟たちはあいさつ回りから解放されたのだった。
「海司、これいっしょに食べない?」
「あ、うまそう。でもこれ二人でたべきれるか?」
バンケットスタッフが持ってきてくれたご飯をふたりでお皿につぐ。
大きなスプーンは使い慣れていなくてなかなかとりづらいが、とにかくおなかが減っているのでなんとか取り分ける。
食べ物はあまり見慣れないものもあって、これは本物のカニのパスタのようだ。
いつも食べているカニかまとは香りが全く違っていた。
「おいしい!これ好きー」
「おいりう!お前食べ方どうにかしろよ・・・テーブルクロスにめちゃめちゃこぼしてんじゃねーか」
もう、好きなだけご飯を食べたら帰っていいことになっている。
文句言っている海司にはかまわず、せっかくなのであるだけひととおり食べたいが、デザートビュッフェをすべて制覇できるだろうか?
とにかく頬張りながらふと向こうをみると、そらと大地がご飯も食べずに何か話していた。
「だから、オレもう帰っていいでしょ?」
「・・・父さんは、お前にもいてほしいって言っている。わかってるだろう」
「こんなところにはいたくない。大兄こそ分かってるでしょ。・・・オレはここには必要ない」
「・・・」
「・・・そら」
そらが大地との話を終え、りうたちのところへ向かう。
りうは、食べるのをやめてそれを見た。
「そら兄ちゃん・・・」
今まで、見たことのない顔だった。
なぜ、こんな辛そうな顔をしているのだろう。
そらにいつもの笑顔はなく、りうたちの横を通り過ぎて外へと出て行ってしまった。
海司は瑞貴がデザートを食べるのをそばで世話をしていて見ていない。
「そらにいちゃん・・・」
「りう」
なんだかに気になるので後を追いかけようとしたところを
大地に止められてしまった。
「大兄ちゃん?」
「・・・りうは気にしなくていいから。ごはん、もういいのか?」
優しい笑顔でいわれたものの、なぜ制されたのか疑問で大地を見上げる。
訴える気持ちが通じたとは思うが、少し困った顔をされたので、りうはきくのはやめた。
「もう、車は用意してあるからな。りうは海司たちといっしょに先に帰っててくれるか?」
「大兄ちゃんいつ帰ってくる?」
「う〜ん、父さん次第だろうけど・・・先にベッドはいってなさい」
「はやくかえってきてね?寄り道する?」
「寄り道しないよ。すぐ帰るから」
「じゃあ、寝ないで待ってる」
「・・・なんだこの会話」
「「え?」」
夫婦か!と昴につっこまれつつ、言われた通りりうは海司と瑞貴を呼んで車に向かった。
外に待つうちの車をさがすと、もうそらは後部座席に乗り込んでいた。
すでにまどろんでいる瑞貴を運転手がチャイルドシートに乗せ、りうたちも車に乗り込む。
「あ、なんだよそら兄。昴兄たちとここに残んなくていーのか?」
「・・・いいんだよ。オレはいなくても。」
いつもと違う様子のそらに、りうと海司はかおを見合わせる。
そらはこちらをちらりとも見ずに、ずうっと窓の外にかおを向けていた。
りうの記憶では、この日からだったと思う。
そらは、夜になっても家に帰らないことが多くなり、
そしてそのことに、
誰も何も言わなくなった。
・・・to be continue・・・