ダンボール戦機ウォーズ

□つ
1ページ/1ページ



窓の外に広がるのは真っ青な色。

空の青と海の蒼、二つのブルーを、少女はじっと眺めていた。

二つ折りの、今ではもう旧式と言われその数をめっきり減らしているCCMが、きゅっと握りしめられる。
僅かに眉根が寄せられたその厳しい表情の訳は、彼女のみぞ知るといったところか。

『本船は定刻通り、10時に神威島へ到着する予定です。
神威島では2時間停泊の後、出航致します。繰り返しお知らせ致します…』

「…外、出てみよ。」

船室の壁に立て掛けられた時計に視線をやると、誰に言うでもなく呟いた。
CCMを開いていじると、肩にかけられたエナメルバッグの中から、青と黄色を基調としたカラーリングのLBXが飛び出してくる。

「お前のメンテナンスは、もういいもんな。」

カチカチとCCMのボタンを押してジャンプやダッシュ、バク宙など一通りの操作を試し、少女はにんまりと笑った。
最終チェックと言わんばかりにジャンプ→空中ダッシュで自分の頭にLBXを乗せると、パチンとCCMを閉じる。

「俺と、あと二人。どんな奴か会いに行こうぜ、リュウビ!」

__フェリーが神威島に到着するまで、あと約一時間。

頭の上の相棒‐リュウビ‐にそう声をかけると、船室のドアを開け放った。

ひゅお、と潮風が少女の水浅葱の髪を靡かせ、鳶色の目が輝く。
後ろ手にドアを閉めた彼女は雲一つない青空を見上げ、太陽の光に目を細めた。


神威島。そこは、世界中からLBXプレイヤーが集う小さな人工島。
とはいえ、LBXプレイヤーであれば誰でも行けるという場所ではない。
特にプロのLBXプレイヤーを育成する中高一貫の神威大門統合学園に入学するためには、公式大会で三回以上の優勝を果たす必要がある。

島はフェリーで一時間以上の所にあり、外部からの通信はほぼ取れない。
ついでに言えば、学園の生徒が島から出られるのは退学か卒業したときのみという、徹底した管理の元に置かれている。
それだけに実力は折り紙つきで、毎年多くのプロプレイヤーが、神威大門統合学園から輩出されていた。

「さぁて。何処にいんのかなぁっと…。」

自分と同じように、過去に大会で三回以上の優勝を果たしたことのある同年代が、同じ場所を目指して、一緒の船に乗っている。
そう考えただけで心が弾んでいた少女は、きょろきょろと甲板を見渡しながら歩き出した。

「うわぁ…。ちょっとどいてぇ!!」

「ん?」

と、背中の方から少年の焦ったような声が飛んでくる。
つい声の方を振り返った瞬間、猛スピードで突っ込んできた何かが、右肩に衝突。
不意を突かれ、板の上に盛大に尻餅をついてしまう。

その衝撃で頭のリュウビが手元に落ち、ゴトンと重い音を立てた。

「ごめんごめん!君、大丈夫?」

CCMを片手に慌てて駆けてきた少年__瀬名アラタは、甲板に座り込んだままの少女に手を差し伸べる。
鈍い痛みに俯いて、小さく唸っていた彼女は、差し伸べられた手に顔を上げた。

「…っ?!」

そして、少女の顔を見た途端、アラタの体が固まった。
頬に熱が集まり、心臓がばくばくとうるさくなる。

…つまり、そういうことだ。

(か、かか、可愛い…!!///)

陶器のように白い肌
するりとした端正な顔立ち
焦げ茶のシュシュでサイドテールにされた、サラサラ揺れるきれいな池の水のような色の髪

一瞬で彼女に見入ってしまったアラタは、手を出していた事も忘れてぼんやりと立ち尽くしてしまう。
そして見入られている少女の方は、特に何にも気付いた風はなく明るく笑った。

「大丈夫、ありがとな!でも、手はいいや。こんくらい何ともねーし。」

すっくと立ち上がった少女の背丈は、ちょうどアラタと同じくらい。
先程頭から落ちたリュウビを両手で拾い上げてバッグにしまうと、もう一つ落ちたままのLBXを手にとった。

「はい。」

「っえ!?」

突然に何かを差し出されたアラタははっと我に帰った。
驚いてついすっとんきょうな声を上げてしまったアラタに、少女は怪訝そうな顔をする。
少し首を傾げる仕草に合わせてさらりと髪が揺れて、またアラタは彼女に見入ってしまった。
重症だ。

「えっ、てなんだよ、えって。
こいつ、お前のLBXだろ?アキレス・ディード。」

丁寧に両手で包まれたそれは、さっき少女に衝突してきたLBXだった。
アラタはどこかぎこちなく頷くと、アキレス・ディードを受け取る。
その時、彼女の手にアラタの手が触れた。

(なんか…ひんやりしてる…。)

自分の手より幾分か温度が低い手は、それでも温かな気がした。
手が冷たい人は逆に心が温かい、と誰かが言っていたのを思い出す。
またまたぼんやりと、一瞬だけ触れた手の感じを思い返していると、くすりと笑い声が降ってきた。

「お前、LBX大好きなんだなー。大丈夫、あんくらいの衝撃じゃどこも壊れねえよ。
そういや、お前名前なんていうんだ?俺は勇崎アオネ。」

すっと差し出された右手に、アラタは慌ててアキレス・ディードを肩に乗せる。
LBXも当然大好きだけれど、今はアオネの事を考えていたのだと言える訳もない。
笑顔に笑顔を返すと、彼女の手を取った。

「俺は瀬名アラタっていうんだ。アラタって呼んでくれよ。よろしくな、アオネ!」

「おう、よろしくな、アラタ!!」





(アラタも、今日から神威大門統合学園に入るのか?)

(ああ!アオネも、そうなのか?)

(勿論!俺今14なんだけど…、同じクラスに入れたらいいな。)

(そうだな!(まじで同じクラスになれたらいいよなぁ…。)

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ