ダンボール戦機ウォーズ

□俺
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今日は新しい学校への転入日だ。
転入するのは、神威大門統合学園。『神の門』とさえ呼ばれる、LBX専門校。
入学資格は、LBXバトル公式大会での三回以上の優勝歴。
因みに僕は過去7回の優勝を果たしている。7回目の優勝はアルテミス。これに出場するため、わざわざ転入を一年遅らせたんだ。
一度学園に入ったら、退学するか卒業しないと、島の外には出られないからね。


「おーい、そこの君―!」

遂に到着した神威島の港、神威港。学園に向かうルートを確認するために地図を開いていると、後ろから声を掛けられた。

もしかして、今日から神威大門統合学園に転入する人の一人かもしれない。
まあ挨拶くらいはしとこうと考えて、振り返った。

「……君たちは?」

目の前には、笑顔を浮かべて立つ僕と同い年くらいの少年と少女。

「俺は瀬名アラタ。んで、こいつがアオネ。君も神威大門統合学園に入るんだろ?よろしくな!」

瀬名アラタと勇崎アオネか。
瀬名アラタの方には大して関心を抱かないけれど、まさかあの勇崎アオネも一緒の日に転校してくるなんて。
同じクラスには絶対なりたくないものだ。LBXバトルが荒れる。
今は瀬名アラタの後ろで、大人しそうににこにこしながら僕を見ているけれど、その笑顔、詐欺なのは判ってるから。

「……まぁね。僕は星原ヒカル。」

「おおっー!仲間仲間!! ん?
星原……、どっかで聞いたことがあるような……。」

「じゃ、急ぐから。」

できるだけ関わりたくなくて、僕はさっさと歩き出す。
最後にちらりと視線をやると、勇崎アオネとばっちり目が合ってしまった。
しまった、と思った時にはもう、彼女の笑顔は大人しそうな雰囲気を脱ぎ捨てていた。

「また後でな、ヒカル〜!!」

手を拡声器の要領で口元に添えて手を振る勇崎アオネ。
僕としては、また後で会いたくない。
学園への道はどうせ同じだ。せめて追い付かれて絡まれないようにしよう。














「ちぇー、なんだよ、つれない奴だなー。」

「うーん…。星原…星原……。」

目が合ったから手を振ったのにノーリアクションで置いてかれた。

腕を下ろし、俺は口を尖らせぼやく。
どうやら自分は、ヒカルに嫌われているらしい。
嫌われた理由については、何となく察しはついてる。
だけど別に謝るような事でもなし、自分で言うのもなんだが良心に基づいての行動だったし。
余計なお世話だって言われたらそれまでだけど、俺としては後悔したくなかったもんだから。

そしてアラタはヒカルの名前が気になるらしく、ぶつぶつと彼の名前を連呼していた。

「う〜ん、なんか絶対聞いたことあるんだけどな…。
…あっ!悪いアオネ、俺たちも行こうぜ!」

はっと顔を上げて駆け出したアラタ。
何もそこまで慌てんでも学校は逃げねえよと心の中で穏やかにツッコみつつ俺も駆け出して、素朴な疑問をアラタにぶつけた。

「なあアラタ、学校までのルート、知ってんのか?」

「え?地図があるだろ?」

「地図?」



ピタリ。


二人して足が止まった。


「アオネ、地図持ってないのか?!」

「ああ、持ってない。つーか、どこで手に入ったんだ?神威島の地図、どこの店とか探しても見付かんなくって。」

「じゃあ、もし一人だったらどうするつもりだったんだよ。」

「ふっ、決まってんじゃねえか。
人に聞く!!」

そうさ、昔父さんが言ってた。
舌と耳さえあれば、何処へだって行けるってな!!
実際俺も9歳のときにA国に一人で放り出され、父さんと母さんが世話になってたとある博士の元まで、僅かな日本語を話せる人々の話を頼りに辿り着いたという武勇伝を持っている。
博士、めっちゃびっくりしてたなぁ。
ついでに、博士の娘と教え子もめっちゃ驚いてた。いやー、今思い出しても愉快愉快。
因みに俺は暫くその博士の研究を手伝うために滞在したので、その娘のお姉さんと教え子のお兄さんとはよく遊んでもらっていた。

俺がLBXに本格的にハマったのは、そのお兄さんが持ってたLBXが、すごくかっこよかったからなんだよなぁ。
フルスクラッチで見たことない機体だったってのも、大きな魅力だった。
三年前にようやく自分の機体…リュウビを持てて、神威大門に入学するため色んな大会に出て、たくさんのLBXを見てきたけど、あのお兄さんの機体よりかっこいいと思ったのはない。
あ、我が自慢の相棒リュウビは別として。

そーいやあのお姉さんとお兄さん、今頃どうしてんのかなぁ…。
三年前に博士が行方不明になって、その関係で俺も両親と一緒に日本に帰って…。それから会ってもないし電話をしてもない。

っとと、話が盛大に反れてる。

「じゃあ、この地図やるよ!」

人に聞く!!と拳をつくり言い放った俺に、たくましいな!と目を丸くしたアラタから、ぽんと地図を手渡される。

「俺、そそっかしいからさ。亡くすと大変だからって、母さんにコピー持たされてんだよ。」

苦笑いしながらカバンに突っ込み引き出した手には、地図のコピーが握られていた。

「うわああ、ありがとうアラタ!!すげー助かった!!」

人に聞くって言っても、やっぱり不安は残る。
アラタの優しさ(とコピーの要るそそっかしさ)に感激して、思わずぎゅっと抱きついた。

「うわわわわ、アオネ!?」

「っあ、わりい。ついクセで。」

アラタが一瞬にして茹で上がったのを見て、ぱっと離れる。
俺としちゃただの普通のスキンシップなんだが…ここまで真っ赤になられると、逆にからかいたくなるな。ふへっ。

「そいじゃま、とっとと学校行きますか!!行くぜアラター!」

「え、あ、ああ!!」

ぱし、とアラタの手を握って走り出すと、戸惑ったような、照れたような返事が聞こえた。

……やっぱアラタ、面白い。






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