ダンボール戦機ウォーズ

□楽
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気が付いたら全く知らない場所に立っていて、どうしてこんなところにいるんでしょうと考えようとしても何も分からないときって、過剰に恐怖を感じてしまうんですね。
確かにわたしは男性が怖い…ようなんですが、一定の距離以内に近付けない程、怖いわけではないみたいなのです。

「あ、あの、海道先生。そちらのお荷物、持ちます!」

「む、そうか。では頼む。」

こうして、普通に書類の束を手渡されても平気です。受け渡しの時に、手が触れたりしなければ。

「おお、海道先生!少し宜しいですかな?」

「ぴっ!!?」

あと、後ろから、突然大声を出されなければ……。

バサバサバサッ

手から受け取ったばかりの書類が滑り落ちても、わたしは固まってしまって動けないまま。
紙、数枚毎に止めてあってよかったです…。

「おおっとすまんすまん!!ことりさんは、男性が怖いのでしたな。」

正確に言うと、今怖いのは大声なのですけど。

「す、すみません、猿田先生!
少し、びっくりしてしまって。」

「いやいや、こちらこそ申し訳ない。」

猿田先生からすれば、普通にお話しているんでしょうけれど……声量が大きくて、無意味にびくびくしてしまいます。
わたしとしてはこんな風に人を怖がりたくないのに、肩が勝手に跳ねてしまいそうというか。

「ところで猿田先生、僕に何か御用でしょうか。」

すっ、と、海道先生がわたしと猿田先生の間に入ります。
……わたしを、気遣ってくださったんでしょうか。

「阿妻さん、僕は猿田先生と話があるから、先にこれを持って職員室に行ってくれ。」

渡されたのは、さっきわたしが落とした書類たちです。
今度は落とさないように、周りを確認して……はい、しっかりと受けとりました。

「は、はい。えっと、美都先生に渡す、んですよ、ね。」

「ああ。よろしく頼む。」

お二人にお辞儀をして、いざ職員室へ!
また男性の声にびっくりして書類を落とさないよう、しっかりと手に力を込めます。

「…あっ。」

移動教室で、楽しそうに話ながら歩いていく生徒達。
微笑ましく思いながら暫く歩いていって、ふと重要な事に気が付きました。

「…海道先生にお礼と謝罪…申し上げていませんでした……。」

そうです。

落とした頼まれ物(書類)を回収して頂いたのに、わたしは何も言わずに立ち去ってしまったのです。

(ああ〜…、やってしまいました…。)

かといって、今から戻るのもどうでしょう。
職員室はもう目の前ですし、先に美都先生に渡してきましょう…。

















「はい、確かに受け取りました。でも…次は皺にしないよう気を付けて頂戴ね。」

「すすす、すみません!!次は、落とさないように、あと強く持ちすぎないように気を付けます!!」

事務椅子をこちらに回して苦笑いをしている美都先生の手には、しっかりと持ちすぎて縁が皺になった書類の束。紙面に折り目までついて、へろへろです。
精一杯頭を下げるわたしに、美都先生は大丈夫よ、と声を掛けてくれました。
お、お優しいです…!

「これはただの資料だから、問題ないわ。
…そうね、ことりちゃん。次は私から海道先生に書類を頼んでもいいかしら。」

「…っ! は、はいっ、喜んで!!」

がばりと顔を上げたわたしの前に差し出されたのは、……ええと、何と言いましたっけ…。

「明日、2年3組に転入してくる生徒の履歴書よ。名前は、勇崎アオネ。」

「あ、以前ジョセフィーヌ学園長からお話を頂いた転入生さん!! わぁ、どんな子なんでしょう…。」

顔写真に写っていたのは、とっても可愛らしい女の子でした。
大人しくて笑顔が柔らかい、そんな子なんでしょうか。それとも、元気でお日様みたいな子なんでしょうか。

ともあれ、ハーネスに新しい子が来るんです。今日の指令室と教室のお掃除は、いつもより絶対に失敗できません…!
昨日はお雑巾を絞った後コンセントを触ったら、ビリッときて驚いた拍子にバケツのお水をひっくり返してしまったんですよね。
あのビリッとしたの…何だったんでしょうか。前に一度触ったときは、何ともなかったのですが。

「アオネちゃんは、明るくて素直で賢い子よ。正直、ジェノックに欲しかったわ。」

「はぇ?美都先生、勇崎さんをご存知なんですか?」

履歴書から顔を外して訊ねると、美都先生は懐かしそうに目を細めて頷きました。
美都先生が学園に来る前、時々小学生だった勇崎さんの遊び相手になってあげていたそうです。
何年ぶりかの再会、ということになるんですよね。なんだか素敵です。


職員室を出ると、日暮先生と海道先生が一緒にいらっしゃいました。
海道先生に何かを話していた日暮先生は、ドアの前で止まったわたしを手招きします。

「ことり、美都先生から何か預からなかったか。」

「はい。海道先生へ、転入生の履歴書を渡すように頼まれました。…あ、先に日暮先生に…」

「いや、あたしはもう見たんだ。海道先生、お願いします。」

わたしの手から履歴書を受け取って、中身を見ずにそのまま海道先生へ。

「それじゃあ、あたしは保健室に戻る。放課後はウォータイムに指令室へ向かおう。」

「ご足労かけます。」

日暮先生は、あまりウォータイムに指令室に来ません。
いつ急患が出ても対処できるように、いつも保健室にいるのです。

「…、勇崎アオネ…。」

「海道先生、美都先生のお話ですと、勇崎さんは明るくて素直で賢い子、だそうですよ。楽しみですね!」

「……素直というより、遠慮のないだけな気がするが…。」

履歴書を眺めながら、ふむ、と唸る海道先生。
あれ?海道先生も勇崎さんを知っているんでしょうか。今口振りが…。

「ああ、ここに来る前、よく彼女の遊び相手にされていてね。
両親がLBX嫌いだったはずだが、よく神威大門にこれたものだ。」

「遊び相手って、美都先生も同じことを仰ってました!アオネちゃん、ご両親のお仕事大変だったんですね。そんなにお引っ越ししているなんて。」

……わたしは、どうだったんでしょうか。

両親はどんな人なんでしょう。
わたしは何処にいて、何をしていて、どうしてここにいたんでしょう?

ジョセフィーヌ学園長と日暮先生、海道先生や皆さんのご厚意で、ここに身を置いてから一週間。自分について、何も分からないまま。
その上、皆さんからすれば凡そ仕事とすら呼べない仕事も、満足にこなせません。

(もっと、頑張らなくちゃいけませんね。)

ぐっと両手を握り自分に言い聞かせます。分からないなら、早く覚えていかなければ。

いつまで経っても役立たずではいられません!

「…海道先生!!」





その後。役立たずどころか迷惑人になってしまったわたしがいたのでした…。

(……何を、しようとしていた?)

(ええと、その、セカンドワールドの、世界情勢を見ようと…。)

(……こんなエラー見たこと無いぞ。)

(すす、すみま、せん…。)

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