ダンボール戦機ウォーズ

□第
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教室の廊下側の一番隅、それが今の私の席だ。


「おはよーさんシスイ、なんでそんな隅っこにいるん?」

「今日は転入生が来るんだよ、スズネ。それで席が移動したんじゃないかな。」

朝、遅刻ギリギリでスズネが登校。
すでにもう同じ問いをギンジロウとシェリーにもされていて、説明が億劫だと思ったところでタケルが代わりに話してくれた。
今まで私はカゲトラとスズネの間の席に座し、居眠りするスズネに気付いたカゲトラ(学級委員長)が頭を抱える様子を横から見物していたものだが、これからは一体どう変わるか。

結局何が言いたいのかというと、私の席が隅に移動したのは昨日の放課後で、面白いものが見れるかどうか転入生で決まる、ということだ。

予鈴が鳴り、急速に喋り声がフェードアウトしてガタガタという椅子の音が大きくなる。
それもおさまった頃、日暮先生はやって来た。

「皆、おはよう。……欠席している者は無し。
では、今日も一日健康に過ごすように。」

いつも通りの簡潔なHRに、転入生の話は出ない。
朝知ってから興味津々だったギンジロウが、挙手をしながら立ち上がった。

「先生!!転入生はいないんですか?」

「転入生か…まだ来ていない。そろそろ来ると思うが。」

そう言って、ガラリと廊下へ出る日暮先生。

程なくして、廊下から二人分の足音が響いてくる。
軽く首を捻って窓の向こうを見ると、阿妻補佐官に連れられて一人の少女が歩いていくのが見えた。
制服はまだ支給されていないらしく、着ているのは私服だ。

廊下で日暮先生と阿妻補佐官(阿妻ことりは先生ではないので、こう呼ぶしかないのだ。)、転入生が会話を交わした後、ドアが開く。

瞬間、さわさわと教室の空気が動き出した。

(…ほう。)

日暮先生の後に着いて教室に入ってきた転入生は、私がそう心の中で呟いてしまう程に容姿が整った少女だった。
立ち姿もすっとして美しい。神威大門ではそう珍しくないが、どこかの令嬢だろうか。

「皆に紹介する。今日からこのクラスに転入する勇崎アオネだ。仲良くするように。」

日暮先生が喋る傍ら、生徒たちを見渡す勇崎とふと目が合った。
彼女の鳶色の眼が少し見開かれ、次いでゆるりと細められる。笑いかけられていると気付くまでそう時間は掛からず、その淑やかな仕草に、彼女への第一印象はかなり良好なものとして固まった。

後はLBXの実力。ウォータイムが楽しみだ。

指示された席に着いた勇崎アオネに、周りの面子(カゲトラ・スズネ・タケル)が順繰りに話し掛けていく。
簡単な自己紹介を受けた勇崎は一度三人の顔を見渡すと、にこりと笑って口を開いた。

「おう、よろしくな。」

前言撤回。令嬢の線は無しだ。
むしろ田舎の産まれか。いや、生まれで人を判断する気はないけれども。

「さて、では授業を始めよう。」

一通りの紹介は終わったと見て、日暮先生は淡々と授業を開始した。













授業開始から20分。

斜め後ろからの景色はまぁそこそこ面白い。
すぐに船を漕ぎ始めたスズネを勇崎が然り気無くつつき起こすのを見たカゲトラはジト目で私を振り返る。
お前も見習え、と目が語る。しかしもう関係ないので知らんぷり。

更に10分経過。

板書が消え始め、ノートをまともに取ってなかった組が慌ててペンを動かす。
けれど、勇崎はペラペラと教科書をいじるだけで、シャーペンは一向に動かない。必死に板書を書き写す隣のスズネといい対比になっていた。

遠目に見えるギンジロウは完全に机に臥せている。今頃ノートを涎で汚していることだろう。

授業終了5分前


寝ていた。

片手にシャーペンを持ちノートにペン先を当てたまま、空いた左手で額を支えるようなポーズを取りピクリとも動かない。
髪の隙間から見える右目は完全に閉ざされているし、十中八九夢の中に旅立っているであろうことが窺える。
スズネも然り。

ふと横に視線をやったカゲトラの顔が盛大にひきつる瞬間もしっかりと目撃できた。今日は朝からそれなりに楽しめたと思う。


「アオネ、転入してきて最初の授業で寝るのはどうかと思うぞ。」

「んえ?」



一時限目が終了して、休み時間。
早速カゲトラが勇崎と向き合っていた。
トントンと教科書を揃えていた彼女は、突然椅子を向けてきた男子にきょとんと顔を向ける。

「いいか、アオネ。神威大門は確かに、唯一のLBXプレイヤー育成校として有名だ。
しかし、学生の本分は勉強であることはかわらない。成績が足りなければ、退学になってしまうぞ。」

「ふーん…。やっぱりフツーの勉強はさせられるんだな。」

しかし、あまりピンと来てないない様子。
のんきにそんなことをのたまっている勇崎に、次の言葉を掛けるのはタケルだ。

「テストの難易度も普通の中学校より大分高めだから、ちゃんと授業を聞いてないと、散々なことになっちゃうよ。
スズネはいつも平均点ギリギリだし。」

「ふふん、カゲトラのノートのお陰やな!」

「そこ、偉そうにするな。」

得意気に胸を張った居眠り常習犯に学級委員長の突っ込みが飛ぶ。
それを他所に、勇崎はタケルに顔を寄せた。

「なあ、テストの点が悪いと、退学になるのか?」

「え?うーん…そう、だね。赤点で退学になるのは他の学校と変わらないと思うよ。」

「そっかー、ありがと。なるほど、赤点な。」

疑問を解消したか、すっきりとした笑顔を浮かべる勇崎。
カゲトラがわかってくれたか、と安堵したその矢先、


「じゃ、やっぱ授業聞く意味ねぇや。」


まさかの授業聞かない宣言。

それまでそれなりに賑やかだった教室がしんと静まり返る。

「…あれ?」

音の消えた教室に、静まらせる発言をした当人の戸惑いの声だけがやけに大きく響いた。


――勇崎アオネ。

第一印象は良かったが、その中身はとんでもない生徒が、入ってきてしまったようだ。




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