兵長がバックドロップ食らったら異世界トリップした

□【転】と書くが物語は転がらない
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えーと …… なんだろ、コレ。猿? いやいやいや、明らかに違うだろ! 丸くて手が大きくて、不細工で造形がなんか変だ。この世のモノとは思えない。
まさか …… 宇宙人!?

捕まえたものの、どうするべきか戸惑っていると、そいつがあたしの手に噛みついた。


「 ◯×■*#%$〜〜〜っ!? 」


声にならない悲鳴をあげ、あたしはそいつを思いっきし投げてしまった。地面に叩きつけられたソレは「 ブギュッ 」と鳴き声をあげ、慌てて広場の植え込みの中に逃げて行った。

な …… 何なんだ、あの生物は。この世界ではポピュラーな生物 …… なのか?
しかし、気持ち悪い生物だったな。

ほっとしたのも束の間。
ソレが逃げ込んだ植え込みがガサガサと音をたて始めた。


「 ! 」


あたしに向かって飛び出して来たのは、さっきの生物。

ふ、増えてるぅぅぅっ!?

それも一匹や二匹ではない。10? …… いや、20はいるだろう。群れとなって、一斉にあたしに飛びかかってきた!



「 ひっ、ひいぃうあぁぁああ!!! 」


あたしの変な悲鳴が、辺りに響き渡った。
リヴァイさんがこちらを見る。


「 リヴァイさん、コイツらどうにかしてくださ ──── 「 何やってんだ。うるせぇ …… 」


助けを求めるも、物凄く迷惑そうに言われた。あたしは小さく丸まり、それの攻撃に耐える。髪を引っ張るとか服を引っ張るとか、一つ一つは大したことないのだが、数に脅威を感じる。
こんなにも訳のわからない状況なのに、リヴァイさんはいつも通り落ち着き払って、まるで何も見えてないような ────


「 おい、何にそんなに怯えてやがる 」


あれ、もしかしてマジで見えてない? なんで!?

一方、駆けつけた綾子さんとアキラ君は、小さくしゃがみ込むあたしを見て唖然としている。
とうとう頭がおかしくなったのかと思ったのだが ……


「 ホブゴブリン!? 何でこんなに …… 」


ん? ほぶ …… ごぶりん? なんだか聞いたことあるような ……
でもよかった、あたしだけが見えてるんじゃなかった! ──── じゃない!


「 た …… 助けてくらさ ──── っ!? 」


言い切る前に、体が中に浮いた。
奴らを掻き分けて来たアキラ君が、あたしを抱き上げたのだ。


「 くそっ、面倒なモン連れて来やがって …… 」


王子様! アキラ君マジ王子様!

しかし次の瞬間、あろうことか彼はそのままあたしをまるでボールを投げるかのように、せーい!と軽々とぶん投げた。

う、うえぇぇぇ!?

空高く舞い上がったあたしは、慌てて体勢を立て直し、綾子さんの前になんとか着地。うん。10点!

しかしアキラ君、す …… すげぇ力だな。人間離れしてる。

綾子さんは体操選手のようにポーズを決めるあたしに目を丸くするも、すぐアキラ君に非難の声をあげる。


「 ちょ …… アキラ君、乱暴! 」


見えてない ( たぶん ) リヴァイさんは、急にあたしを投げ飛ばしたアキラ君に、「 てめぇ …… 」と睨みをきかせる。
アキラ君はそんなリヴァイさんに見向きもせず、ホブゴブリンの駆除?を始めた。よかった、アキラ君アレと戦えるんだ。


「 ちっ …… どうなってやがる 」


無視されるかたちになったリヴァイさんはその尋常でない雰囲気に立ち尽くすが、何か気配を感じ取ったのか警戒体勢をとっている。


「 へいちょー、危ないからこっちへ ──── 「 危ないから、綾子は車内にさがって! 」

「 そうです、綾子さん! ここは男性陣に任せて、あたし達は隠れてましょう! 」


リヴァイさんの心配をする綾子さんの手を引くと、彼女は少し淋しげに微笑み、あたしを移動販売車の中に招き入れた。アキラ君の様子からすると、どうやら綾子さんは非戦闘員だ。それに、あたしを空腹から救ってくれた彼女を、危険な目に合わす訳にはいかない。
あんな謎の生物と戦うなんて、冗談じゃない。


「 イオちゃん、兵長見えてないんじゃない? 連れて来なくてよかったの!? っていうか、あなた何で見えてるの!? 」

「 …… リヴァイさんならなんとかなりますよ 」


あたしはこそっと外の様子を窺いながら綾子さんの方へびしっと親指を立てる。
リヴァイさんはというと、アキラ君が惹き付けているからか、そんなに攻撃は受けていない。だが、数匹は物珍しげに彼の周りをうろついている。
あたし達は見つからないように小声で会話を続ける。


「 なんで見えるのかはわからないけど …… 綾子さん、あれは一体何なんですか。この世界じゃ珍しくない動物なんですか 」

「 あれは、ホブゴブリンっていって、悪魔よ。低級だけど 」

「 あくま …… ? 」


んん? なんか …… これって ……


「 魔障 …… 悪魔から傷を受けないと見えないハズなんだけど …… 」

「 ましょう …… ってもしかして、これかなぁ? 目が覚めた森で、カマイタチみたいな風で切れて …… リヴァイさんはなんにもなかったんだけど ──── 「 それだ! 」


あたしが見せた腕の傷を見て、綾子さんがぽんっと手を叩き、思わず叫んだ。彼女はしまった、という感じですぐ口を塞ぐが

どんっ


車が大きく揺れた。
中の調理器具が頭上に降ってくる。


「 綾子! 」


数に苦戦しているアキラ君が、切迫した声をあげる。
代わりにリヴァイさんがこちらへ来て、窓から顔を覗かせた。


「 女 …… とクソガキ、無事だな。出てくんじゃねぇぞ 」

「「 はい! 」」


勿論、とあたしはめちゃめちゃいい返事をする。綾子さんは …… 少女漫画のように目がキラキラしてる。うん。何も言うまい。
あたしは苦笑いする。
と、リヴァイさんの背後から一匹特攻してくる影が目に映る。


「 リヴァイさん、後ろっ! 危ない! 」


あたしが叫ぶと彼は拳を振りかぶり、襲い来る一匹にぶち込んだ。殴り飛ばされたホブゴブリンはそのままポスンッと霧散してしまった。

うわぁ …… 当たるか? ふつー。悪魔殴り倒すとか、無茶苦茶だわー ……

綾子さんは目を丸くするが、当の本人は何食わぬ顔をして、続けざまに襲い来るもう一匹を裏拳で殴り倒した。
こちらの様子を気にしていたアキラ君までもが、綾子さんと同じように驚愕している。

あたしはというと …… 自分でなんとかなると言っておきながら正直、その強さ(?)に引いた。ナニこの設定。
まぁ、悪魔ってたしか人の負の感情とかに付け入るみたいだし、人類最強はそれだけ強靭な精神力を持ち合わせているのだろう。わーリヴァイさんったら超ポジティブー!
そう思うことで、無茶苦茶設定を自分に納得させる。


「 おい、クソガキ …… 見えてんならそのままサポートしろ 」

「 ガ、ガッテン承知〜! 右斜め上! 」


感覚をつかんだか、今度は蹴りで。悪魔さん達は警戒するように一旦、リヴァイさんと距離を取る。
さすがに綾子さんも呆れたようにため息を洩らす。


「 ちょっ、…… 素手で悪魔殴り倒すとかどんだけ最強!? 無茶苦茶だわ …… 」

「 ね、大丈夫でしょ 」


綾子さんを安心させるように笑うあたしの目に、一枚の写真立てが止まった。調理器具と一緒に落ちて来たのか、カバーのガラスは割れている。なんとなしに拾い上げる。


「 え" …… ? 」


写真には仲良さげに寄り添う人物。その中心は、今よりちょっとだけ若い綾子さん。
そして ────


「 ん? ああ、割れちゃった。それ、私の家族 …… みたいなもんだよ。子供達は、イオちゃんと同じくらいの年頃でね ──── って、イオちゃんどした? 」


綾子さんが心配そうにあたしを覗く。
写真を見つめ、手がプルプル震えてしまっていた。興奮して、である。
綾子さんと共に写っていたのは、眼鏡のナイスミドルな神父さま。そして、可愛い八重歯を見せニカッと笑う少年と、控えめに微笑むホクロが特徴的な眼鏡の少年。
異世界から来たハズのあたしは、この三人を知っている。
それは何故か。
それは ────
なんとこの世界、あたしの知っているアニメの世界だからDEATH☆


「 …… イオちゃん? 」

「 正十字学園町、キターーーーッ! 」


今度はあたしがキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! ←この顔になった。
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