dream

□今はただ、この温もりを
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「最近、寒くなってきたね…」

夏から秋へと変わってきたのを感じさせるような冷たい夜風が肌を撫でる。それに身を震わせて呟くと、リュカもそうだね、と頷いた。


リュカと恋人になってから、私が仕事を終える時間には彼が迎えに来てくれるようになっていた。初めは、リュカの仕事も大変なんだし大丈夫だよと言っていたけれど、そう言うとリュカは困ったように笑って

『別に、大変なことじゃないよ。何より俺が、名無しと一緒にいたいから…ね?』

そう言われてしまえば、私が断れるはずもなくて。以来、彼が余程大変な仕事を請けている時以外では、こうしてクロムウェル家までの道を2人で歩くことが普通になっていた。

そのことを思い出して心の中で微笑んでいると、すっと差し出された手。見上げると、リュカが微笑みながら私を見ていて。
そういえばさっき「寒くなってきた」と言ったからかな?と、リュカの好意に甘える事にして彼の手に自身の手を重ねると、指を絡められてそのまま引き寄せられた。

「リ、リュカ?」
「こうやって、近くにいれば、少しは暖かいかなって」

そう言うリュカの顔は少し赤くて、つられるように私の顔も熱くなる。さっきまでは寒かったはずなのに急激に熱を帯びはじめるのを感じて、私は小さく首を振った。
でも、彼からは離れたくない。もっと触れていたい、と思ってしまう。

私はちら、とリュカの方を見上げてから繋がれた手に視線を落とすと、リュカに声をかけた。

「…ね、リュカ」
「なに?」
「手じゃなくて…腕、絡めてもいい?」
「え……っ、!?」

私がそう問いかけた途端、顔を真っ赤にして目を見開くリュカに内心苦笑した。
……やっぱり、駄目かな?
リュカが照れ屋なのは知っているけど、もっと触れていたいと思うのも事実だから思いきって訊いてみたら、思った通りの反応で。
仕方ないな、と思いもう一度顔を上げると、同時に繋いでいた手が離される。不思議に思っていると、リュカの腕が僅かに上がり、彼が微笑んだ。

「……こっちのほうが、暖かいし。ね?」
「……! うん…っ!」

照れたように笑うリュカに笑顔で頷いて、私はリュカの腕に自分の腕を絡めてリュカの方へそっと寄り添った。

「暖かいね」
「うん…」

仕事が終わり屋敷に帰るまでの、この時間。せめて、あともう少しだけはこのままでいたい、なんて。

(もっとこの温もりに、触れていたい)



end.

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