dream

□貴方からなら、
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元々は、私がティーカップを割ってしまったのがきっかけで、ラッド様の妹として貴族の令嬢を演じることになって。

初めは本当に「兄」のように思っていた彼を、好きになっていたのはいつからなんだろう。彼の大きな手が私の髪を撫でる度に、とくとくと速まる心臓。大人である彼に、私はどのように映っているのかと思うと、怖かった。
彼に名前を呼ばれる度に、胸がきゅっとしめつけられる。好きになってはいけない。彼と私とじゃ、住んでいる世界が違うのだからと、必死に言い聞かせていた。


「……名無し?」

「…っ、え…?」

物事に耽っていてしまい、ラッド様の声で我に返る。僅かに顔が離された至近距離で、酸素が足りずに口から呼吸をしていた私を、彼の不機嫌そうな瞳が映していた。
一体どうしたのだろうかと思い、彼の名前を呼ぼうとした瞬間、ふっ…と彼の表情に妖艶な笑みが浮かび、先程まで交わしていた口付けのせいで濡れた唇を、親指でそっと撫でられる。

「…っ、」
「考え事とは、随分と余裕だな?」
「ラッド、様…」
「本当は、キスだけのつもりだったんだが――」

気が変わった、と、それだけ呟くとそれまで彼に抱きかかえられていた体勢か
ら一気にソファへと押し倒された。

「なっ、ラ、ラッド様!?」
「君が余計なこと考えるから、だろ?」

そう言い微笑んだ彼の瞳には、熱が孕んでいて。その瞳を見た瞬間、私は逃げられないんだという諦めと、彼が私を女性として見てくれているという嬉しさに、自然と笑みが浮かぶ。
私はラッド様の首にそっと腕を回し、彼を見上げた。

「……ラッド様、」
「なんだい、名無し?」
「キス、してください」

私の言葉に一瞬目を見開いたラッド様は、すぐに小さく笑う。


「―――…もちろん、仰せのままに」


そして次の瞬間には、彼からの噛みつくような口付けが降ってきた。

(貴方からなら、逃げられなくてもかまわない。)

   (だけど貴方も、私に捕らわれたままでいてほしい、なんて)



end.

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