空高く

□春
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『春』それは別れの季節。


私は小学校の時にバレーを始めた。
そのきっかけをくれたのは徹。
昔から岩ちゃんと、徹と私の3人でよく連れ立って遊んでいた、そんなある日徹は岩ちゃんと私の前でバレーを始めた。

まだまだグダグダの徹のその手の上にあるバレーボールは繋いでくれる誰かを求めている気がして…
言わずもがな岩ちゃんと私は徹につられるようにバレーを始めた。

年上の幼馴染に進められて始めただけの私は上達も遅かったし、それに加えて小学校のバレーチームでは1番体も小さかった。
監督や担当の先生に『やっぱり身長がないときついな。それにあまり技術の高さも見受けられない。』なんて言われた日には大泣きしながら帰り道を歩いて岩ちゃんと徹を困らせたのを覚えている。
そんな私でも悔しいと思ったことは何度もある。

でも目標も何もない私はやっぱり上達しなかった。

小学校3年から始めたバレーを続けて早1年が経とうとした時、私は忘れていた現実を思い出す。
それは岩ちゃんと徹の卒業、寂しいと思ったと同時に私は『あぁ、これでやっとバレーを辞めれる』と思ったことを覚えている。

岩ちゃんと徹の卒業があと3ヶ月と迫ったある日、その日は2人が一緒に帰れないといった日だった。
仕方なく1人で家路につき、両親の居ない家のリビングでテレビをつけた。

そんな私の目に飛び込んだのは…烏野高校の試合。

相手チームの自分より背の高い選手を見下ろして…ブロックの上を通り抜ける私が触り慣れたバレーボール。

翼の無い人間が高く高く飛ぶ瞬間を息をするのも忘れて見入った。
『小さい選手は高く飛べ』そう言われた気がした。

そうして何分のその姿に見入っていたかはわからない私を現実に連れ戻したのは玄関の外からする岩ちゃんと徹の声。
あ、そうだ今日はお父さんとお母さんが居ないから岩ちゃんのお家でご飯食べるんだった……でも……
私は急いで着替えて部屋にあるバレーボールを持って2人の元へと走った。
玄関を強く開けると目を見開く2人。

「ど……どうした!?」
「何かあったの!?」

俯いてバレーボールを見る私を心配する2人に私はバレーボールを突き出しこう言った。


『私、2人が卒業してもバレー頑張る!
絶対強くなるの!』

まだ難しい言葉が使えない私は至極簡単で直球な言葉を2人に投げたんだ。

あの時の2人の嬉しそうな顔は今も忘れることなく私の中にある。

そしてその3ヶ月後、岩ちゃんと徹は卒業していった。

2人は中学校で、私は小学校で練習を重ねた。

そして時は流れ……私が小学校を卒業する年の最後の公式戦でスタメンとして私はチームのみんなと優勝のトロフィーを受け取った。


その試合を見に来ていた岩ちゃんと徹は私よりはしゃいでいたし、監督や担当の先生は『まさか、うちのチームで1番の選手になるとは思ってなかった』なんて言いながら泣き出すし…そうして大変だったけど楽しかった小学校のバレー生活に私は幕を下ろした。
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