空高く

□出会い
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『高校入学』それは私にとってあまり大きな行事ではない。そう思っていた……

自分の教室に入り黒板に張り出されている座席表を覗き込むと幸運にも窓際最後列だった。
その斜め前がとてつもなく身長が高い男の子でその子の前が地味なそばかす君。
隣も男の子で前は女の子。
うるさそうな人が居なくて良かったと安堵しつつ帰りに寄るつもりのケーキ屋のチラシを広げた。

「あ!ツッキーのよく行く店のチラシ!」

と、いつの間に来たのかそばかす君がチラシを覗き込む。


「ケーキ好きなの?」

私がそう声をかけるとそばかす君は大きく横に首を振った。
「俺じゃなくてツッキー……「山口何勝手に人の名前出してるのさ」ごめん!ツッキー!」

またしてもツッキーと呼んだそばかす君に長身メガネ君は溜息をつきながら私に視線を移した。

「君、そのケーキ屋好きなの?」

「あ、いや今日見つけたから帰りに寄って行こうかなって思って。」

「ふーん、じゃあ帰り一緒に行こうよ。」

確かに初めての店に1人で入るのは気がひけるけど、この偉そうなメガネは誰だ?

「僕は月島蛍こっちのは山口だよ。」

「蛍くんと、山口くんね。
よろしくー。私は「知ってるよ望月名無しさんでショ?
んで、コートの上の妖精。
バレーしてる奴で君の事知らない人少ないと思うよ。」

偉そうな口調に嫌味ったらしさプラスー。
アァ駄目だ。
今まで周りに居なかったタイプだ。
まぁいい。ここは大人になるところだと不満を飲み込む。

「バレーしてるんだ?」

「俺もツッキーもミドルブロッカーだよ!」

「二人とも身長高いもんね!」

とそこで、話に入ってこない月島を目に移すと何やら微笑みかけてくる。
こりゃ一段と気に触ること言われる予感がするなーなんて身構えていると思わぬ人の名前。

「君さぁ、王様の側近やってたって本当?」

「側近?
そんなのになった覚えないよ。
親友だよ。親友。」

と、自分が王様と呼んだのに反論しなかったことに驚いたのか月島は目を見開いて口を開いた。

「なんだ、王様呼びに反応してくるかと思った。」

「まぁ飛雄が王様って呼ばれてたのは事実だし。」

「ふーん」
つまらなそうにそう答える月島に少しだけ勝った気でいると1年4組の担任が入ってくる。

そこで月島と山口は席へ戻っていった。

うちのクラスの担任は定年間近を思わせるほどのお爺ちゃん先生でLHRの間に行われた自己紹介で先生はほぼ寝ている始末だった。

春になって少しだけ暖かくなった風に頬を撫でられると無性に眠くなるのはなんでだろう…
そう思いながら目を閉じると私は夢の世界へダイブした。


寝てからどれくらい経ったのかはわからないが寝すぎて痺れてきた腕を伸ばし、目を開けるとそこにはガランとした教室が広がっていた。


あ、そういえば今日は昼で終わるんだったな…なんて考えて机の右側にかけてある鞄を取ろうとする私の目に飛び込んだのは不機嫌そうに頬杖をつく月島の姿。

「君さ、どれだけ寝たら気がすむわけ?」

「起きるの待ってたの?」

「は?自惚れ無いでくれる?
忘れ物とりに来たらたまたま君が目覚ましたんでしょ。
ま、目が覚めたんならケーキ屋行くよ。」

「あ、うん!」

教室を出て行った月島を追いかけて私も教室を出る。
頬杖のつき過ぎで赤くなってしまった頬。
月島のバレバレの嘘を見抜いた私は嬉しくなって一つだけケーキを奢った。

部活に入部できるのは1週間後。
それまで体が鈍らないように誰かに練習相手でも頼もうか…

桜が蕾の季節に幼馴染や友達に別れを告げて……
桜が咲き乱れる季節に新しい友達が出来た……

何か大切な事を忘れている気がするがそんな事気にならないくらいいい天気だった。
そう……一ヶ月前から壊れていたケータイの存在を私は忘れていたのだ。
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