空高く
□チャレンジ
1ページ/2ページ
「……日向ボケェ!!!」
「あわわ!怒るなよ影山!!」
いつも通り体育館に響く飛雄の怒鳴り声と日向の怯える声。
その間に挟まれた私は、一生懸命考え事をしていた。
「おー、今日も影山は絶好調だなぁ」
………。
「本当、あの二人の喧嘩見てると練習してるなって感じがするよな」
…………。
「ノヤっさん!
サーブ練付き合ってくれ!」
………………。
「おうよ!」
……………………。
「大地ー!
どうした?さっきから考え込んで?
練習するぞ。」
「なぁ菅原。」
「ん?どうした?」
「俺はさ、幻覚でも見てんのかな?」
「はぁ?
!!体調悪いのか!?」
「いや……さっきから喧嘩してる影山と日向の間に望月が見える。」
「いや、それ幻覚じゃねーべ?」
…………あの剣幕の影山の目の前に居ることを尊敬すると同時に、なんでみんな望月がいることに突っ込まないのか、部員の許容範囲がわからなくなってきた。
「うーん。」
「おい、さっきから何やってるんだ?」
「考えてる。」
「見りゃわかる!!」
「もー!じゃあちょっと黙って!」
「…………はい」
さっきから、飛雄の怒鳴り声を気にせず無心に考えている。
……どうして飛雄はこんなに教えるのが下手くそなんだろうと……
「なぁなぁ!
サーブと、ジャンプ教えて!!」
と、考えてる間に日向が声をかけてきたので私は一度考えるのを止めた。
「ん、いーよ!
どっちからいく〜?」
少しだけふざけて日向にそう問いかけると、即答で『ジャンプ!』という答えが返ってきた。
「うし、了解!」
今日は烏養さんが遅れてくるから自由に練習する事になったけど、そう毎日日向につきっきりで練習ができないとなると、日向との自主練も頭に置いておかなければならない。
「じゃあ、まずは普通に飛んでみて。
あ、いつもの試合的な感じで。」
私がそう指示を出すと、日向はコートギリギリまで後ろに下がった。
そこから、物凄い速さでネットへ向かって思い切り飛ぶ。
すでに日向には十分すぎるほどのジャンプ力が身についていると思う、けどそれをさらに高く高くと求める姿は小学校から中学校までの私とよく似ていた。
小さいからブロックに捕まる。
捕まりたくないからもっと早く、もっと高く飛びたい。
その欲求はよく理解できた。
「翔陽さ、飛ぶ時少しだけ力ためてない?」
「ためてる!かも?」
「じゃ、もう一回」
「そーい!!」
日向が飛ぶ。
その瞬間の足元を私は見ていた。
さっき私が言った通り。
日向は助走を付けた足を一瞬だけ止めて飛んでいる。
確かに力をためてから飛んだほうが膝のバネを充分に発揮できるだろう。
でも……
「翔陽さ、やっぱり少し長めにためて飛んでる。
高く飛びたい気持ちはわかるけど、膝のバネを使って飛ぼうとしてるならそんなに長い助走は無駄。
助走を生かして勢いで高く飛びたいならその長めのためは無駄だよ。」
きっと翔陽は『小さな巨人』をモデルに飛んでる。
今の私のジャンプのフォームも『小さな巨人』をモデルに身につけたものだからよくわかる。
でもきっと、日向に言葉で説明しても無駄だ。
今の私の説明だけでもうパンクしそうな顔をしている。
「んじゃ私と飛んでみるか!」
「うは!いいの!?」
目が輝いた日向を見て思う。
自分の好きなもので、自分より長けている人を見たり教えられたりする時の高揚感はやみつきになると。
そう考えながら、私と日向はコートのギリギリまで後ろに下がった。
「んじゃ、私が言葉を発しながら助走つけて飛ぶから翔陽はそのまま再現してね!」
私の言葉に黙り込んでしまった日向。
あれ?なんかおかしなこと言ったかな?なんて考えていると、日向の口から思いもしなかった言葉が飛び出して私は笑った。
「…俺のジャンプ…小さな巨人がモデルで!その…名無しさんのジャンプスタイルが嫌ってんじゃないんだけど……今の変えたくないっていうか……その。」
「ふふふ……翔陽安心しろ!
私のジャンプのモデルも小さな巨人だよ!」
そう言った瞬間に興奮する日向はとても長男とは思えない。
「んじゃいくよ!
飛雄!ジャンプの高さ見といて!」
「ん、わかった。」
大きな声で飛雄にお願いしたからなのか、珍しい練習を私達がしているからなのか、各自の練習の手を止めてみんなの視線が私達に集まる。
「んじゃせーーーのっ!
スタート!」
スタートの声で走り出した私達。
同じくらいの体格で、同じくらい飛ぶ私達はやっぱり足の速さも同じくらいのものだった。
あと5歩…というところで私は日向に指示を出す。
「翔陽!前衛ラインより手前からどんどん状態落として!!
前のめり!!」
前衛ライン少し手前50センチのところからどんどん前のめりに状態を落とす。
私と日向がいつも飛ぶ位置の時にはもういつもの『ため』の体勢に体を持っていくために。
「いつものジャンプ直前の体勢に持って行けた瞬間に飛んで!!」
日向はきっと体で感じで体と感覚で覚えるタイプの人間だから、私はこの方法の教え方を選んだ。
このジャンプスタイルは、私が大好きなスタイル。
流れるようなそのフォームに私は目を奪われたから。
このジャンプなら、小さい私でも戦える事を教えてくれたから。
《キュッ》というシューズの擦れる音と同時に私と日向は飛んだ。
着地した私を襲ったのは日向の大興奮なテンション。
「すげー!!!!!
今、向こう側がいつもよりよく見えた!!!!」
「気持ちいよね〜。
私も大好きな景色だな。
んで、飛雄!どうだった?」
「…………トス……上げたくなった。」
おい……違うだろう……そうじゃないだろう…………でも、私達打つ側の人間にとったらスパイカーのその言葉以上のほめ言葉はない。
それは日向もわかっているようで、私と2人目を合わせて微笑んだ。