空高く
□苦悩
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『中学』それは俺や名無しさん、及川にとって一番の変化が現れた時期だった。
共通点は、バレーの技術の〈伸び〉。
小学校最後に才能が開花し、勝利の味と敗北の味…どちらも知った名無しさんは己の異名を世に轟かせるほどの成長を見せた。
その成長は同年代の女子や男子とは比べ物にならないほど…まだまだ成長過程であったから全日のオファーは無かったものの、高校からの誘いは中二の頃には二ケタを超えるほどだった。
次に大きな変化を見せたのは及川。
及川の成長は中学に上がってからだった。
成長期を迎え飛躍的に伸びた身長。
元のセンスが良かったのか開花したセッターとしての才能。
だが、中三まで公式戦で負けなしだった名無しさんとは違い及川にはどうしても勝てない相手が居た。
それは牛島若利。
奴のいる学校には今現在も勝てたことは無い。
『勝ちたい』
その気持ちを嘲笑うかのように襲い来る『敗北』
そして、名無しさんとウシワカの関係。
…影山飛雄という才能の塊との出会い。
及川は焦っていたんだと思う。
追いかけても追いかけても追いつけない天才。
天才と呼ばれた大切な幼馴染と、自分が追いつけない天才との硬い交友関係。
自分を追いかけ、経験という差を着々と縮めてくる後輩の天才。
焦っていたと同時に怖がっていたように見えた。
自分は天才ではない。
だからこそ強く感じる天才3人と自分の『差』
心配する名無しさんを強く拒絶するようになったのもちょうどこの頃だった。
どんどんオーバーワークは増え、監督から注意されることが多くなりそれに加えて、度重なる試合でのコンビミス名無しさんにひどい言葉を投げかける自分自身にもそんなくだらない失敗を繰り返す事にも、何の非も無い影山にさえ腹を立てていた。
『てめぇ、名無しさんが泣いてたぞ『徹に嫌われちゃった』って』
『岩ちゃん…俺は幼馴染としてもセッターとしても失格だね』
そんな風に言った及川をぶん殴った事を今も鮮明に覚えている。
『…んな弱音はいてる暇があんならとっとと名無しさんに誤ってきやがれ!
てめぇが目の敵にしてる天才はウシワカや影山であって名無しさんじゃねぇだろうが!
…天才が皆敵だと思うなよ!』
…目が覚めたような…泣きそうな顔をしながら部屋から飛び出しって行った及川を俺は見送りながら思った。
不器用でとんでもない馬鹿だと。