にっし

□07/19 渡辺理沙
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「ここで大丈夫だから」

一面が田んぼでその中でぽつんと立ってる駅は

さびれていて荒廃している。

もうすっかり暗くなったあたりを見回しながら、

ウチは悠次郎の自転車から降りた。

背中にしょったバッグが重いのは、

歯の後ろの方がズキズキ痛むのは、

悠次郎の無言が切なかったからじゃない。

とか言い聞かせてもやっぱりなんか、こう、もどかしい。

中学生の僕たちは平気で人を傷付けるし

傷付けられたりもする。

すぐへこむし、すぐおこるし、相手を引き離す。

「ありがとね」

うまく笑えたかわからなかった。

参っちゃうなあ。

奈々の真剣に謝ってきた時の顔も

毎日真綾に教科書をみせてもらってる龍も

今目の前で淋しそうにコーラを受け取った悠次郎の目も

すべてもどかしくて、なんか切なくて。

溢れてきそうな涙をこらえて振り返る。

ごめんね悠次郎。

あんたやったら応援してくれると思ったん。

こんなこと言えるわけもないけど。

「…あのさ」

歩き出そうとした私のつま先が、その声に止まった。

振り返ると、少し微笑した悠次郎がコーラを突き出してきた。

「持って」

「…え」

ずいと差し出してくるコーラを受けとる。

悠次郎は自転車の荷台を親指で指すと、

「やっぱ星、見に行こ」

と小さく呟いた。

頬が熱かった。風が冷たかった。

差し出された悠次郎の手は暖かかった。

龍の顔が浮かんだ。

「…うん。」

気がつくと返事をしていた。

星が綺麗な夜の話だった。





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