にっし

□07/20 山田真綾
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受験だから塾に入りたいんやけど。と呟くと、

親は秀英とか明光義塾以外ならいいで。と言った。

なにその基準。

ということで親がもらってきた塾のパンフレットから

一番安そうなところを選んで、

尚且つ家から近いところを選んだ。

家から徒歩五分。駅の近くのアパートの三階にあるらしい。

ここに行ってる人は聞いたことがない。

というか中学生が居るのかも怪しい。

なのでここが嫌だったらもう一度選び直すつもりだ。

制服のまま、重い鞄を肩にかけて、階段を登る。





緊張する。

あまり交友関係は深い方ではなかったので

とりあえず同学年がいないことを願った。

錆びている鉄のノブを掴むと、

ゆっくりと手前にひく。

ギィイ、という音。耳に触る。




目に入ったのは少人数の生徒。

数えると4人。田舎の塾にしては多い気がする。

学年ごとわけられているらしく、見知った顔ばかりだ。

一気に振り向く生徒たち。

この空気が嫌で、ぎゅっと目をつぶったその時。

「真綾!」

理沙よりちょっと低い声に、再び目を開ける。

「聞いとん?」

「あ、彩音!」

驚いた。4人のうち一人は、野球部マネの彩音だった。

クラスが違うが、同じ野球部のマネージャーという立場もあり、

仲が良い友達の一人だ。

彩音は黒いショートの髪をたくしあげながら、

大きな口でにかっと笑う。

「新しく来る人って、真綾のことやったんか!隣すわりぃ!」

お言葉に甘え、横に座る。

席は2個ごとにくぎられており、残りの席は3つ空いている。

あと三人ほど来るのであろう、と予想していると

彩音はニヤッと笑った。

「この塾、基本的に馬鹿ばっかやから真綾は飛び出てまうよ」

「え、そうなん!?」

「桜葉高なんて目指しとるんは真綾だけやない?」

他はみんな松高やで。と付け足しながら、

派手なリュックからこれまた派手な筆箱を取り出す。

彩音は野球に詳しいが、アタシは全然知らない。

ただ「ボールをみるとスカッとする」という理由で入った。

高校野球はみるようになったものの、

プロ野球はさっぱり。

隣の席のアホのせいでハンシンだけは覚えてしまったが。

ー松田ほんま憧れ。ぜってえあんなボール投げれんし打てん。

でもいつか投げれるよおになりてえなぁ。ー

目を輝かせながら語った岡島の顔が頭に浮かぶ。

あいつも松高とか言ってたなあ。








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